バーバリアンとして生き残る – 第88話 「バロン・マルトアン (4)」要約と考察
第88話では、バロン・マルトアンが提示する条件と、その後の冒険者チームの準備、そしていよいよ迷宮への再突入が描かれます。物語は、政治的な駆け引きから再び「冒険者の日常」へと流れを戻しつつ、未来への伏線を巧みに織り込んでいます。
バロンの要求 – 見世物としての取引
バロン・マルトアンがビョルンに課した依頼は意外なほど単純でした。
「二か月後に伯爵の宴に同行し、力を見せ物として披露すること」
例えば鋼鉄を素手で曲げるなど、観衆を驚かせる芸当を見せ、バロンの顔を立てる。言い換えれば、ビョルンを“戦利品”のように連れて行き、自分の権威を誇示するための道具にしたい、ということでした。
その報酬は――
- 100万ストーンの謝礼
- ドゥワルキーの迷宮出禁の解除
驚くべき高額。下水掃除の依頼が15万ストーンであったことを思えば、その差は歴然です。
ビョルンは「ただの一日付き合うだけで100万ストーンなら悪くない」と判断し、取引成立。ドゥワルキーの問題もその場で解決されました。
ドゥワルキーの心情 – 兄にすら覚えられていなかった
翌日、迷宮出禁が本当に解除されたことが確認されます。しかしドゥワルキーは憔悴しきっていました。
血の繋がりのある兄――現バロンが、自分の存在すら覚えていなかったという事実。その屈辱と絶望が彼の心を蝕んでいます。
形式的には「問題解決」ですが、精神的には大きな傷を負ったままでした。
ムラド(ドワーフ)は用意していた報酬(30万ストーン)を渡そうとしますが、ビョルンは受け取りを拒否。「チームのために動いただけだ」と言い、貸し借りのない関係を保とうとします。
迷宮再突入へ向けた準備
迷宮の再開まで残り8日。チームは再び日常の鍛錬と準備に入ります。
1. 禁書の調査 – 150年前の謎
レイヴンの鑑定により、『次元の裂け目Ⅱ』の紙は 150年前のもの と判明。
これは偶然ではなく、歴史的事件と重なる年代でした。
- ゲーム世界が始まった時期
- 初代国王の死
- そして禁書の成立
ビョルンは「150年前に何があったのか」を新たな調査課題とし、この世界とプレイヤー転生の秘密を探ろうとします。
2. チームの共同口座設立
アルミナス銀行に口座を開設し、互いを死亡時の受取人に指定。今回の収益(200万ストーン)を全額共有資金として預けました。
冒険者稼業は常に死と隣り合わせ。その中で、残された仲間に資金を確実に渡す仕組みを整えたことは、チームの結束を一層強めるものでした。
3. 旧友との再会 – バーバリアンの同胞
街中で、成人の儀を共にした同胞カラクと再会。彼は人間のチームに加わり、8級冒険者として活動していました。
彼は「伝統に固執した部族のあり方が死を招いた」と批判的になっており、環境に順応して生き延びた“変化したバーバリアン”の姿を示していました。
この再会は、ビョルンに「バーバリアンも環境によって精神的に成長する」という気づきを与えます。単なる獣的な存在ではなく、知恵を蓄える存在にもなり得るのだと。
4. 成長の兆し – 身長の変化
ミーシャが「ビョルン、背が伸びていない?」と指摘。わずか1センチ未満の変化を見抜く彼女の観察眼は驚異的ですが、もし本当なら重要な意味があります。
バーバリアンのタンク能力の要である【巨大化】は基礎身長に比例して倍率がかかるため、ほんの数センチの差が戦力に直結するのです。
「もっと肉を食え」というミーシャの言葉は、冗談以上の意味を持っていました。
再び迷宮へ – 出発の日
いよいよ迷宮解放の日。各自が装備を整え、チームは集結します。
- ムラドは重装備をまとい、盾役としての決意を示す。
- ドゥワルキーは長大な杖を携え、魔術師らしい姿に。
- ロトミラーは【財宝庫】スキルを活用し、武器をサブスペースに収納。
そして、ドゥワルキーが詠唱する【結束(ボンディング)】。これによりパーティー全員が同じ場所から迷宮に突入可能となり、冒険者ギルドでの煩雑な手続きを回避できる。魔術師の存在意義の大きさを、ビョルンは改めて実感します。
道中、成人の儀を終えたばかりの若いバーバリアン戦士たちと遭遇。彼らは迷宮の恐ろしさを知らず、胸を躍らせています。
ビョルンは彼らを導き、以下のような助言を惜しみなく与えます。
- 人間の冒険者に注意しろ。バーバリアンの心臓は高値で取引される。
- 一緒に夜を過ごすなら異種族を選べ。
- 罠には近づくな。光のある道を進め。
これは、かつて自分が苦労して学んだ知恵を、次の世代に託す行為でした。
「リトル・バルカン! 尊敬します!」と目を輝かせる若者たちに、ビョルンは短く答えます。
「はい。そうすれば強くなれる」
その背中を見送ったムラドは「お前は同族に優しいな」と言いますが、ビョルンは「当然だ、全部自力で学べなんて酷すぎる」と答えます。そこには、戦士でありながら教育者のような側面を持つビョルンの姿がありました。
迷宮突入 – 不穏な予兆
冒険者たちでごった返す次元広場を抜け、ポータルが開く。
光に包まれる瞬間、ビョルンの脳裏に過去の冒険の記憶が蘇ります。
- 初めての突入で、命がけで2階層に到達した時。
- 二度目の挑戦で、変異リフトに入り込み地獄を見た時。
- 仲間と離れ離れになり、フロアマスターの暴走を前に死線をさまよった時。
そして今。
「……今回も何かが起きる」
予感は確信に近い。冒険者としての勘が告げていました。
光の中で彼が目にした文字――
『第一層 クリスタル洞窟に入場しました』
続いて浮かび上がるシステムメッセージ。
『TIP: 現在、吸収可能なエッセンス数は上限に達しています。新たなモンスターを狩り、レベルアップせよ!』
まるでゲームのような通知。
再び始まるサバイバルの幕開けです。
第88話のテーマと意味
- 貴族の気まぐれな権力
- バロンの要求は「宴の余興」。命を左右するほどの権力を持ちながら、その使い道は自己満足に過ぎない。この落差が、庶民と貴族の隔絶を浮き彫りにしています。
- ドゥワルキーの喪失感
- 形式的に救われても、精神的には救われない。血縁の無関心が彼の心を折り、今後の精神状態に影を落としています。
- 歴史の謎 – 150年前
- 禁書の鑑定から見えてきた150年前の出来事。この“世界設定”の深掘りは、転生の秘密と絡み合い、メタ的伏線として強烈に作用しています。
- 教育者としてのビョルン
- 若い戦士への助言は、彼自身の成長を示す象徴的シーン。単なる生存者から、“次世代に知恵を伝える存在”へと進化しつつあります。
- 不穏な次への導入
- システムメッセージの提示で章が終わるのは、再び「ゲーム世界」と「現実世界」の境界が曖昧であることを強調し、次なる波乱を予感させます。
まとめ
第88話は、バロンとの交渉による「一時的な解決」から始まり、再び迷宮攻略の日常へと物語を戻すエピソードでした。
しかしその中で、
- 150年前の歴史という大きな伏線
- ドゥワルキーの精神的ダメージ
- 若きバーバリアン戦士たちへの継承
など、今後の展開に関わる重要な要素が丁寧に配置されています。
そして最後に示された「エッセンス上限」のシステムメッセージ。
これは単なるゲーム的演出ではなく、今後の冒険に直結する制約であり、またしてもビョルンに試練が迫っていることを告げています。
次章、クリスタル洞窟で彼らを待つのは何か――。