バーバリアンとして生き残る – 第99話 「噂 (1)」要約と考察
第99話は、魔塔での「悪霊検知実験」の顛末と、ビョルンが知らぬところで広がる“バーバリアン像”の誇張を描いています。
伯爵主催の決闘大会で名声を得た直後、今度は「悪霊の容疑」と「噂の拡散」という二重の要素が彼を取り巻き、物語は政治的・社会的な広がりを見せ始めます。
1. 魔塔での一幕 ― 老師の仕掛け
物語冒頭、ビョルンは魔塔でラヴェンの師である老魔術師に出会い、「悪霊の魂を識別する魔道具」の実験を提案されます。
唐突な展開に警戒するビョルンですが、彼の直感は「これは虚構の実験」だと見抜きます。理由は以下の通り。
- 何千年も存在しなかった技術を突然作り出せるはずがない
- アルテミオン学派は「魔法理論研究」が中心であり、魂や悪霊といった領域は専門外
- 本当に存在するなら、もっと強引な方法で彼を座らせているはず
つまり、これは“魔道具”ではなく、ただの奇妙な椅子。老師はビョルンの反応を試すために仕掛けただけだったのです。
ビョルンは「怪しげだが危険はない」という態度を取り、実験に応じる姿勢を見せます。この堂々とした反応により、老師は疑念を払拭。彼の「悪霊説」は一旦否定されました。
2. ラヴェンと老師 ― 秘密の会話
ビョルンが去った後、ラヴェンは師に問い詰めます。
「本当に彼を悪霊だと疑ったのか」と。
老師は沈黙しつつも、実際に疑っていたことをほのめかします。しかし不思議なのはその理由。もし本当に疑っていたなら、秘密治安部局に通報すれば即座に処理されるはず。にもかかわらず老師はそれをせず、あえて自分で確かめようとしました。
ラヴェンが「なぜ通報しなかったのか」と問うと、老師は小さく答えます。
「通報すれば彼は死ぬ。生きた悪霊が必要なのだ。」
この言葉はラヴェンに深い不安を残します。彼の目的は単なる警戒ではなく、“生ける悪霊を利用する研究”なのかもしれない、と。
3. ビョルンの帰宅と安堵
宿へ戻ったビョルンは、朝から緊張を強いられたことでどっと疲れ、ベッドに倒れ込みます。
「老師は失望したような顔をしていた」と思い返しつつも、「とにかく疑いは晴れた」と安心します。
彼にとっては「不運を帳消しにする出来事」として受け止められ、むしろ“運気の調整”とすら考えます。ゲーム的な感覚が染みついているため、不運と幸運のバランスを常に気にしているのです。
4. ミーシャの来訪と決闘大会の顛末報告
昼過ぎ、ミーシャが合鍵を使って部屋に入り込み、ビョルンを叩き起こします。
彼女は伯爵主催の宴で何が起きたのか気になって仕方がなかったのです。
ビョルンは、
- バルバロイ用の衣装を着せられたこと
- 行列の先頭に立ち注目を浴びたこと
- そして騎士を次々と倒して優勝したこと
を淡々と語ります。
ミーシャは驚愕し「本当に勝ったの!?」と目を丸くしますが、ビョルンにとっては大したことではありません。むしろ「お前なら余裕だった」と評するほど、彼は冷静です。
二人は貴族から届いた大量の招待状の返信作業もこなします。ビョルンが口述し、ミーシャが代筆するという形ですが、その内容は素っ気ないものばかり。
「忙しいので行けません」
「他のバルバロイを探してください」
「署名:ビョルン・ヤンデルの息子」
この不躾な文面にミーシャは不安を覚えますが、ビョルンは「バルバロイから返事があるだけで奇跡だ」と取り合いません。
5. 新たな視点 ― 若きバルバロイ、ドゥカート
場面は変わり、別の若きバルバロイの視点へ。
カフェンの息子ドゥカート、成人からまだ1か月しか経っていない新米戦士です。
ある貴族に雇われ、宴に出席させられるドゥカートは、窮屈な衣装や慣れない作法に戸惑い、恥をかくばかり。彼は「なぜ自分がこんな真似を…」と内心で愚痴をこぼします。
しかし、教育係の貴族は常に比較対象を口にします。
「ビョルン・ヤンデルの息子は難なくやっていたぞ」
その名を聞いた瞬間、ドゥカートは反論できなくなります。なぜなら、ビョルンはすでに“伝説のバルバロイ”として彼の耳にも届いていたからです。
彼はこう思うのです。
「真の戦士は、人前で大声で叫び、肉を食い、骨を噛み砕き、己を恥じることなく振る舞える存在だ。自分にはまだそれができない。」
やがてドゥカートは自嘲しながら言葉を漏らします。
「比べないでくれ。ビョルン・ヤンデルは特別な戦士なんだ。」
その言葉は、同じ場にいた多くの人々にも共感を与えました。
「やはりあのバルバロイは特別だった」
「普通のバルバロイは思ったほど野蛮ではない」
こうして“ビョルンだけが突出した存在”という認識が広がり、彼の名声はさらに高まっていきます。
6. 名声の拡散と“噂”の誕生
最後に、システムメッセージが示されます。
「キャラクターの名声が+10」
「キャラクターの名声が+10」
これは単なる加算ではなく、「ビョルン像」が社会に浸透し、神話的に膨らんでいく過程を示しています。
他のバルバロイでは代替できない唯一無二の存在――“ビョルン・ナイトクラッシャー”という噂が、街や貴族社会に根を張り始めたのです。
第99話のテーマと意味
1. 権力者の疑念と研究欲
老師が「生きた悪霊」を必要としていることが明らかになり、今後ビョルンが研究対象として狙われる危険が示唆されます。疑念が晴れたはずなのに“失望”を浮かべた表情は、不穏な伏線として残りました。
2. 噂の力と名声の拡張
ビョルンの行動は誇張され、他のバルバロイと一線を画す「唯一の存在」として神格化されつつあります。名声は武器であると同時に、重圧や誤解を呼び、やがて敵意や利用の対象になるでしょう。
3. 自己認識と他者の視線
若き戦士ドゥカートの視点は、ビョルンが外部からどう見られているかを鮮明に示しました。彼自身はただ“生き残るため”に振る舞っているだけですが、その姿は他のバルバロイにとって到達不可能な理想像になっています。
4. 「特別視」がもたらす孤立
「普通のバルバロイはそうでもないが、ビョルンは別格」という噂は、同族からの共感ではなく孤立を意味します。彼は仲間内で比較対象として語られ続け、やがて「異質な存在」として扱われかねません。
まとめ
第99話は、二つの重要な展開を描いています。
- 魔塔での偽実験を通じ、ビョルンは「悪霊容疑」を退けたが、老師の真意は不穏で、今後の危険を示唆。
- 噂の拡散によって、彼は“普通のバルバロイではない特別な存在”として神格化され、名声が一層高まった。
この回は「疑念の払拭」と「神話化の始まり」という二つの要素が交差し、ビョルンの立場をより危うく、同時により大きくしていきます。
物語全体において、第99話は「ビョルンの名が社会的現象となる転換点」であり、以後の展開において彼が避けられない“噂の重み”を背負う序章と言えるでしょう。