【徹底解説】第235話「New Age (5)」——“新時代”の顔合わせ、逃亡者、そして帰還
1. 概要(まず全体像)
本話は三幕構成で進みます。
第一幕:王宮の庭での余韻——伯爵ペルデヒルトがビョルンに「娘との婚姻+恋人は側室で」という政略的提案。ビョルンは丁寧に明確拒否。
第二幕:密やかな夜の爆裂——王宮に拘束されていた李白虎(イ・ベクホ)が、秘匿していた超危険スキルで封印陣を破壊して脱走。王権と彼の“約束”の空虚さ、そして彼の次の行き先の指針が描かれます。
第三幕:日常への接続——宴から五日後。ビョルンは約束どおり戦死者の家族に弔問し、帰宅後、喪失の只中にいるエルウェンを家に受け入れる。そして深夜、「魂の共鳴」が再び起動――新たな“世界”への招致を示し、緊張を高めて終わります。
2. ペルデヒルト伯の“提携”——貴族社会の現実を最短距離で
伯爵はまず歴代の大英雄(「10階踏破の深淵探索者」等)を列挙し、偉業の陰に“強力な後援者”ありと説きます。続けて、
「我が家は財も騎士も十分。ただ探索者だけが弱い」
と、家格の弱点を率直に開示。だからこそビョルンを“家の顔”に迎えたい――“娘との婚姻”はその最短ルート、という理屈です。ここで重要なのは、彼が合理的かつ直接的に動くタイプで、「娘=資産」ではなく「家の政治資本としての最適化」を口にしている点。
なお、「側室は三名まで」という身も蓋もない“貴族の義務”を掲げた瞬間に、ビョルン側の倫理的反感が明確化します。彼は即時に怒鳴らず、静かな拒絶(短く丁寧にノーを伝え、場を荒立てない)を選択。
- ポイント:受けるメリット(金・コネ・権威の傘)は巨大。ただし私的生活を政治化し、自律性をむしばむ危険も同じく巨大。
- 物語的には、ビョルンが王家からの爵位(子爵)を得た直後に、貴族規範がどう襲いかかるかを見せる“教材シーン”。“英雄”が制度に飲み込まれるのか、距離を保つのかが問われました。
最小引用:「よく考えろ。血縁を結びたい者がどれだけいる?」
→ “後援”ではなく“血縁”に触れたところが政略婚の本質。これに対しビョルンは関係の形そのものを否定し、提携の余地を残さない返事で幕引き。
3. 宴の終わり、夜の始まり——李白虎の脱獄
視点が転じ、王宮監禁下の男へ。彼は**王国宰相(テルセリオン侯)**との面会で現状を知ります。
- 被害の規模:「4階以上の探索者の7割死滅」。特に7階以上の主戦力が壊滅的。
- 彼が執着する論点:かつての討伐作戦で、王家が「押し切れば勝てたのに敢えて時間を与えた」という疑義。“約束”は初めから守る気がなかったのでは、という不信。
このやり取りで浮かぶのは、王家の二枚舌疑惑と、李白虎の絶望的な孤立。しかし彼は折れない。
彼が用いたのは暗黒系の極大スキル(最小引用:「星の絶滅」)。周囲の魔力を吸い上げる黒球を生成→封印陣ごと破砕→半径100m規模の無差別殲滅を引き起こし、**宙歩き(空間干渉)**で王宮の外へ。
- 技術ポイント:証人がいなかったため王家は彼の切り札を把握していなかった。情報優位をてこに、危険度A級の脱出が成立。
- 心理:王家に裏切られ続けた10年の果てに、「答えはここにはない」と結論。“次はノアーク(敵)に当たる”という逆説の合理へ踏み出します。
- 余韻:まずは魔導塔で情報網の再構築→**潜伏(ビフロン)**検討という、冷静な復旧手順。ただの激情家ではない。
この脱獄は、王都の「安全神話」を撃ち、都市内テロ同然の穴を示しました。王党側は**二正面(ノアーク+特異人物)**への備えを迫られます。
4. 五日後——“約束”を果たすビョルン、そしてエルウェンの帰還
4-1. 戦死者の家へ
ビョルンは車で片道4時間かけ、戦死者の妻子を弔問。「息子に知らせてくれ」という父の言葉は、少年の前では笑顔の種にはならない。それでも遺族が必要とする“儀式”として、ビョルンは名を覚え、足を運び、言葉を紡ぐ。
最小引用:「別の場所で会っていれば、友になれた」
この一言は、異邦人同士の連帯を象徴し、同時に取り返しのつかなさを静かに刻みます。
4-2. エルウェンの居場所
家に戻ると、エルウェンが来訪。ミーシャが気を利かせ部屋を用意しており、ビョルンはダリアの遺言を伝えて**「保護者」を引き受ける**決意を再確認。
- 大事なのは、理屈よりも場所。喪の只中にいる人には、講釈でなく眠れる部屋が要る。
- ミーシャは言葉選びで地雷を踏みそうになりつつも、即座に軌道修正。エルウェンは**「何も残っていない」と絞り出し、眠りに落ちる。
この場面は、ビョルン一党が“戦力”から“共同体”へ**変質していく節目。保護者=ガーディアンという語の重さが、今後の判断(報酬の選択・狩場・対人)にも影響してくるでしょう。
5. 深夜0時——“魂の共鳴”が再起動
日常の隙間に突然差し込むゲーム的システム。
最小引用:「魂が共鳴し、特定世界へ引かれる」
これはソウルワールド/悪夢領域(作中での“場外戦”)への招待状。あの道化(コープス・コレクター)が来ているのか――ビョルンは逆に出会いを望むほどに、復讐心を研ぎ澄ませています。
この“定期イベント”は、
- ① 心身の回復イベントを待たずに
- ② 宿敵との再会線をつなぐ
ショートカット装置。現実と異界が互いを呼び合う二層構造が、シリーズの推進エンジンとして改めて稼働しました。
6. テーマの深掘り
6-1. 「力」と「制度」
- 爵位(子爵)=制度から与えられる力。後援/婚姻は制度側の“取り込み”装置。
- ビョルンは制度の利得だけを摘み、人格の私有化(政略婚)にはノー。ここに**“自律的戦士”**の矜持が光ります。
6-2. 「約束」と「裏切り」
- 王家は**“物語”としての王命**で場を制しつつ、実務レベルでは薄情に見える。
- 李白虎は十年単位の失望を経て、ついに自分の判断の外に希望はないと確信。
この対置は、国家の物語/個の物語の衝突として読めます。
6-3. 「死者への責任」
- 弔問のシーンは短いが、英雄叙事の裏側にある“生活の線”を照らす。
- エルウェン受け入れは、戦利品(宝庫)より優先すべきものを示す選択。共同体再建は“新時代”を生きる最低条件です。
7. 世界設定・仕組みの補足(初心者向け)
- 後援(パトロネージ)文化:貴族は“所属探索者”の実績で互いの格を測る。金・装備・コネを供与し、見返りに名声の配当を得る。
- 側室制度:法的に最大3名まで許容。名目は「家の繁栄=国家貢献」。現代的な感覚では受け入れ難く、ビョルンの拒否が人間味を際立てる。
- 李白虎のスキル:暗黒領域の超高出力吸エネ→爆砕。封印破り+広域破壊がセットのため、施設防衛側の天敵。
- 魂の共鳴イベント:現実時間に割り込む非物理戦闘フェーズ。再戦・追撃・邂逅の舞台装置。
8. 今後の注目点(戦略メモ)
- 黄金宝庫の選択
- 対“毒”“魔法”の恒常耐性、または殴打強化+破砕特性のスタックを推奨。対ルーイン・スカラーの保険は必須。
- 王家との距離感
- 宴では礼節+独立性を両立できた。以後も「王家のために」ではなく「市の安定のために」など、目的語をすり替える話法が有効。
- 李白虎の動向
- 魔導塔→潜伏の線。王都に第二の爆心を作らせないよう、王家は情報網の穴埋めに奔走するはず。
- エルウェンの4級報酬
- 元の精霊系ビルドを拡張するか、属性耐性+支援を積むか。パーティ全体の安全係数を押し上げたい局面。
- 魂の共鳴の対面相手
- 道化/別個の仇敵/あるいは**ルーイン側の“観測者”**の可能性も。情報の切り取り方に注意。
9. 物語技巧の見どころ
- 交互配置:祝宴の光と、脱獄の闇を交互に置くことで、世界の振れ幅を体感させる構成。
- 短い決め台詞+行動:ビョルンの拒絶、李白虎の破封は、躊躇のない一手で読者の認知負荷を下げ、キャラ像を強化。
- 静と動のリズム:弔問→帰宅→就寝→深夜イベント起動という静→動のスイッチングが巧み。
10. ひとことで言うと
“新時代”は、勲章と縁談と爆発で始まった。
ビョルンは制度に飲まれず利だけ取る道を選び、李白虎は制度を見限って外へ出る道を選んだ。
ふたりのベクトルがいつか交わる気配を残しつつ、物語は**次の戦場(魂の共鳴)**へ。
11. 予想(短期)
- 次回、共鳴先での遭遇戦。もし道化が来るなら、毒対策なしの現状は危険。逆に情報戦/心理戦寄りの展開も。
- 宴の“表”で固めた名声は、“裏”の追手(ルーイン派・ノアーク潜伏者)を引き寄せる磁石にもなる。護身と情報遮断の両立が課題。
12. 用語ミニ事典
- 黄金宝庫(Golden Treasury):王家最上級クラスの保管庫。3級級も混ざる。
- 側室制度:貴族男系の家を増殖させる制度。最大3名まで可。
- 星の絶滅:暗黒系・高出力吸収→爆砕の大規模破壊スキル。封印破りに最適。
- 魂の共鳴:現実と異界を繋ぐ強制イベント。宿敵再会や固有試練が起きやすい。