- ハンスJへの殺意と、仲間を守るための「引き返す勇気」──防衛戦(3)
- 1. 「ハンス・アウロック」という名前──理性で抑え込まれる殺意
- 2. 島攻略の方針会議──「仲間探し」か「立て籠もり」か
- 3. ハンスJの「投票」提案と、バーバリアン式民主主義
- 4. 強化されるモンスターと、じわじわ削られる精神
- 5. ついに爆発する感情──ハンスJの「諦めろ」発言と、首を掴む主人公
- 6. 見つかったのは希望ではなく──ヘイナとノーアーク隊員の遺体
- 7. 浮かび上がるノーアークの闇──カーミラ、ベルバーソン、そして「歴史を変える宝」
- 8. 「ミーシャを探すか、皆を守るか」──リーダーとしての、苦すぎる選択
- 9. 第273話のテーマと、今後の焦点
ハンスJへの殺意と、仲間を守るための「引き返す勇気」──防衛戦(3)
第273話「Defense(3)」は、前話までで高まっていた緊張が、一気に人間関係と心理の問題として爆発する回です。
・主人公にとって特別な意味を持つ名前「ハンス」
・見つからないミーシャ
・増え続けるモンスター
・そして発見される仲間の死体
外部の敵(モンスター・ノーアーク勢)だけでなく、内部の不和と感情の暴走が前面に出てくる、物語的にも非常に重要なエピソードです。
1. 「ハンス・アウロック」という名前──理性で抑え込まれる殺意
前話ラストで名前を名乗った魔術師、ハンス・アウロック。
主人公にとって“ハンス”という名前は、ゲーム時代のトラウマに直結する存在であり、ここでも心の中で彼を**「ハンスJ」**と呼んでいます(おそらくプレイヤー名/煽り混じりのあだ名)。
その名前を聞いた瞬間、
- レイヴン
- アイナル
の二人が、主人公の反応を理解して「ビクッ」と反応するあたり、どれほど強烈な名前なのかが伝わってきます。
主人公は、ハンスJを「今すぐ殴り殺したい」という衝動に駆られながらも、一度自分を押しとどめます。
・まだ“裏切り者”の証拠はない
・自分の“予感”だけでは、パーツランやエルシナは納得しない
・このタイミングで手を出せば、逆にこちらが悪者になる
つまり本心では殺意MAXでありながら、
リーダーとして、かつ“現実世界の探索者”として、冷静にリスクと状況を判断し、あえて何もしない選択をします。
「今はまだだ。我慢しろ」
この「我慢」が後半で決壊しかけるのが、この話の肝でもあります。
2. 島攻略の方針会議──「仲間探し」か「立て籠もり」か
一通り事情を共有した後、レイヴンが全員を集めて現状整理を行います。
- 島からは“波(ウェーブ)”のせいで脱出できない
- モンスターは時間経過とともに強化されている
- すでに4等級ボス「サイレン・クイーン」まで出現している
- この異常事態は明らかに“通常のフロア攻略”ではない
そこで、情報源であるパーツランが、ノーアークから聞かされていた“攻略条件”を明かします。
「詳しいことは知らないが──二日後の夜明けまで生き残ればいいと聞いている」
これにより、この地獄のような状況にも時間的な終わりが設定されていることが判明。
レイヴンはここで二つの選択肢を提示します。
- 防衛に適した場所を探し、そこで立て籠もって夜明けを待つ
- まだ見つかっていない仲間(ミーシャ&パーツラン隊の弓手)を探しに島を動き回る
どちらも一理ある提案ですが、ここで主人公は迷いなく答えます。
「仲間を探しに行く」
パーツランも同意し、自らの仲間ヘイナを探すことを宣言。
この流れで“仲間探しルート”に決まりかけたところで、ハンスJが口を挟みます。
3. ハンスJの「投票」提案と、バーバリアン式民主主義
ハンスJは、どこか場違いな空気を漂わせつつ、こう言い出します。
「投票で決めませんか?」
この発言には、
・自己防衛的な慎重さ
・“正論風”の空気読みの悪さ
・そしてどこか人間味の薄さ
が混ざっており、主人公のイラつきがひしひしと伝わってきます。
とはいえ、提案自体は合理的でもあります。
それぞれ立場や事情が違う以上、全員の意思を可視化する行為として“投票”は正しい判断とも言える。
実際に挙手をとってみると──
- 全員が「仲間を探しに行く」に賛成
- ハンスJも、周りを見て渋々手を上げる
結果として、バーバリアン式民主主義による意思決定は、主人公の望んだ方向と一致。
物語としては軽いギャグを挟みつつも、
「一応、形式上は皆の総意で決まった」
という形が整えられます。
これが後の「戦い続けるべきか、引き返すべきか」という葛藤につながる、重要な布石になっていきます。
4. 強化されるモンスターと、じわじわ削られる精神
方針が決まり、一行は8人+捕虜1人の大所帯で島の探索を開始します。
(ミーシャとヘイナを除き、ほぼ全員が合流済み)
しかし、ここからの展開はひたすらに重い。
- 島自体はそこまで広くないはずなのに、なかなか探索が進まない
- 30分ほど前から、敵の格が明らかに一段階上がっている
- シー・ジャイアント
- ナーガ・アーチャー
- サーペント・オブ・パルプス
……といった、一体一体が本来ならパーティで相手したい格の敵が雑に湧いてくる
仲間たちは誰一人弱音を吐かないものの、
空気は明らかに重くなっていきます。
「この数のモンスターの中、もしたった二人で孤立していたら──」
誰も口にしないけれど、全員が同じことを考えている。
「ミーシャとヘイナは、まだ生きているのか?」という疑念が、じわじわと精神を削っていきます。
5. ついに爆発する感情──ハンスJの「諦めろ」発言と、首を掴む主人公
そんな張り詰めた空気の中、ついにハンスJが口を開きます。
「……もうやめるべきじゃないですか?」
彼は続けて、
- 「論理的に考えればもう手遅れだ」
- 「皆、気づいてるくせに誰も言わないだけだ」
と、“正論”を口にしてしまいます。
たしかに彼の言っていることは一理あります。
このまま消耗戦を続ければ、生き残っているメンバー全員が危険に晒されるのは事実です。
しかし、この言葉は、
- 仲間を信じたい、まだ希望を捨てたくない者たち
- ミーシャを想い続けている主人公
にとって、絶対に触れてはいけない痛点でもあります。
主人公は一瞬で距離を詰め、ハンスJの首を掴み上げます。
「はっきり言え。誤解する前にな」
レイヴンが叫び、パーツランが止めに入り、
それをアイナルとエルウェンが“対人戦モード”で牽制するという、パーティ崩壊寸前の状況が、わずか数秒で形成されます。
- アイナルは「一歩でも近づけば殺す」とパーツランを威嚇
- エルウェンは無言で神官エルシナの背後に回り、事実上の“人質ポジション”を取る
「仲間同士でいつ殺し合いが起きてもおかしくない」
そんな最悪の緊張状態が、一瞬で作られてしまうのです。
主人公自身も、
「これは自分らしくない」
「完全に頭に血が上っていた」
と内省し、ギリギリのところで手を離します。
ハンスJを地面に投げ捨て、壊れた隊列を立て直しながら、
何とか“内戦”だけは回避することに成功します。
しかし、この一件で、
- お互いへの不信感
- 「あいつはいつ暴発するか分からない」という警戒
- 「向こう側につくか、こちら側につくか」という無意識の陣営分裂
が生まれてしまい、
パーティ全体の足並みは確実に乱れていくことになります。
6. 見つかったのは希望ではなく──ヘイナとノーアーク隊員の遺体
ギリギリの綱渡りを続けていた一行は、ついに死体を発見します。
「ミーシャ!」
と一瞬最悪の想像がよぎるものの、
そこに横たわっていたのは──パーツラン隊の弓手、ヘイナ。
パーツランは駆け寄り、その身体がすでに息をしていないことを確認し、地面を殴りつけて悔しさを露わにします。
さらに、彼女のすぐ近くにはもう一体の死体が。
- それはノーアーク側の探索者
- ネバーチェの仲間の一人
であることが判明します。
ここでエルシナが、
自身の重要スキル**「悪しき終焉の宣言(Declaration of Evil’s End)」**を発動。
一定時間、モンスターが近づけない結界を張ることで、遺体の検分と情報整理のための“安全地帯”を確保します。
レイヴンによる死因の分析は、さらに状況を混迷させます。
- ヘイナ:腹部の刺し傷が致命傷。噛み跡も多いが、決定打は「刺されたこと」。
- ノーアーク隊員の女性:全身がズタズタで、巨大な爪痕のような傷。
- しかし、この階層で見たモンスターには該当するものがいない。
- 強いて言えば「ワイバーンなどの大型飛行モンスター」に襲われたようなパターン。
さらに、二人の遺体からは装備・アイテムがすべて剥ぎ取られていることが判明します。
- サブスペースポケットは持っていなかった
- つまり、誰かが意図的に“現場で漁った”
これらの状況から、主人公は二つの可能性を考えます。
- この島に、まだ未知の第三勢力(別パーティ)がいる
- **ノーアーク内部での仲間割れ(裏切り・殺し合い)**が起きた
そこにネバーチェの証言が重なり、「犯人像」が鮮明になっていきます。
7. 浮かび上がるノーアークの闇──カーミラ、ベルバーソン、そして「歴史を変える宝」
ネバーチェは、仲間を殺した可能性のある人物として、
- 毒剣使いの剣士 ベルバーソン
- ドレイク召喚士 カーミラ
の名を挙げます。
- ヘイナの腹部の刺し傷 → 剣士ベルバーソンが怪しい
- 仲間女性の異様な“巨大な爪痕” → カーミラの召喚獣ドレイクの仕業と考えれば辻褄が合う
さらに、彼らが狙っていた“宝”についても、ネバーチェは断片的な情報を口にします。
- それは「代々領主家に伝わる秘宝」
- 「手にした者は歴史を変える」とまで言われる代物
真偽は不明ながら、
「アメリアがわざわざ動いてまで回収しようとしたレベルの品」
であることは間違いありません。
ノーアークはすでに外の世界へ出ており、
ある意味「新天地でのスタート資金」としても、この宝は魅力的すぎる存在です。
- 元の世界を捨て
- 裏切りと殺し合いをし
- 宝だけを抱えて新しい人生を始める
そんな血生臭いシナリオが、じわじわと現実味を帯びてきます。
なお、ヘイナの遺体はハンスJによって保存魔法+サブスペース収納され、あとで正式に弔うための処置がなされます。
このあたりは魔術師として有能であり、かつ一応“仲間の死を無下にしない”姿勢は見せているところがまたややこしい。
8. 「ミーシャを探すか、皆を守るか」──リーダーとしての、苦すぎる選択
パーツランは、探索者としてすぐに次の一手を求めます。
「これからどうする? まだミーシャを探すのか?」
ここでの選択肢は、明確に対立しています。
- 感情:ミーシャを探したい、死を認めたくない
- 理性:これ以上の前進は、全員を消耗させ、かつ敵対勢力と遭遇するリスクも上がる
主人公は頭では分かっていながら、なかなか「撤退」の判断が口に出ません。
「ミーシャはどうなる」
「もしかしたら、まだどこかで生きているかもしれない」
そんな思いが、口を開くたびに喉を塞いでしまうのです。
ここで主人公は、ふとミーシャとの関係を思い返します。
- 以前、ミーシャは主人公と距離を置く決断をした
- それは、彼の「一度感情が暴走すると、周りが見えなくなる性格」を知っていたからかもしれない
- もしあのとき2人の関係がもっと近くなっていたら、今ごろ主人公は“理性ゼロで島中を駆け回っていた”だろう、とまで自己分析する
これは単なる恋愛の回想ではなく、
「リーダーとしての冷静さ」と「一人の人間としての感情」が、どうしても両立しない
という、非常に重いテーマが描かれている場面です。
最終的に主人公は、深く息を吸い、周りを見渡し、
仲間たちの顔を一人一人確認した上で、こう宣言します。
「全員、武器を下ろせ。
結界(バリア)が切れるまで、この場で休む」
それは、
- 「今は無理に動かない」
- 「ミーシャを探したい気持ちを、一度飲み込む」
- 「まず目の前の仲間たちの疲労と安全を優先する」
という、苦渋のリーダー判断でした。
胃がねじ切れそうな感覚を抱えながらも、
あえて「引き返す勇気」を選ぶ姿は、
これまで“突撃バーバリアン”だった彼の成長を示すと同時に、
物語の緊張を次のステージへと引き上げていきます。
9. 第273話のテーマと、今後の焦点
この話で特に印象的だったのは、次の三点です。
●① 感情 vs. 理性 ―― ハンスJと主人公の鏡像関係
- ハンスJ:冷静すぎる“正論”で皆の感情を逆撫でし、場の空気を壊す
- 主人公:感情を爆発させて首を掴みかかり、隊列を危うく崩壊させる
二人は極端に見えますが、
本質的には「どちらもバランスを失っている」という点で似ています。
今後、この二人の在り方がどう変化していくのか、
そしてハンスJが“裏切り者”としてどう動くのかが、大きな見どころとなるでしょう。
●② 仲間の死の「扱い方」
ヘイナとノーアーク隊員の遺体は、
単に“死亡判定が出たモブ”ではなく、
- 死因の分析
- 装備が奪われた理由
- 誰が何のために殺したのか
といった“事件”として扱われています。
ここにはミステリー要素が加わっており、
島でのサバイバルは、もはや単純なダンジョン攻略ではなく、
「裏切り・陰謀・殺し合いの真相を暴くデスゲーム」
の様相を帯び始めています。
●③ ミーシャの存在感
この話には、ミーシャ本人は姿を現しません。
しかし、主人公の心の中では彼女が常に中心にいます。
- 「ミーシャなら、今の自分をどう見るか」
- 「ミーシャが自分と距離を置いた理由」
- 「彼女を探し続けるのか、それとも仲間を優先するのか」
彼女は“いないからこそ強く意識される存在”となっており、
次回以降、ミーシャが再登場したときのインパクトは相当なものになるはずです。
第273話は、派手なボス戦こそないものの、
人間関係・リーダーシップ・感情の制御というテーマがギュッと詰まった、
非常に“中身の濃い”エピソードでした。