『転生したらバーバリアンになった』小説版・第320話ロングあらすじ【初心者向け・保存版】

転生したらバーバリアンだった
Surviving the Game as a Barbarian | Chapter: 320 | MVLEMPYR
Rattle, rattle. On a ten-seater transport carriage that was speeding through the city, there was an anomaly among the gr...

【徹底解説】再生される悪夢と剣聖の来訪|『転生したらバーバリアンだった』第320話あらすじ&考察


導入

ガタガタと揺れる輸送馬車の中で、ただ一人、場違いな存在があった。
険しい表情を浮かべる大人たちに囲まれながら、十四歳の少女が虚空を見つめている。

彼女の名はアメリア・レインウェイルズ。
いまの彼女ではない。二十年前、まだ何も知らなかった頃の彼女だ。

この回は、戦闘から始まらない。
代わりに描かれるのは、「知らされないまま戦場へ運ばれる」という、より根深い恐怖である。
敵が誰なのか、なぜ戦うのか、どこまで危険なのか――そのすべてが伏せられたまま、人は戦場に送られる。

アメリアが感じている不安は、理屈では説明できないものだった。
身体が先に理解してしまった違和感。
それが、この物語の始まりだ。


詳細あらすじ

揺れる馬車と、揺れない不安

輸送馬車は十人乗り。
速度を上げて市内を走る車内で、大人たちは皆、口を閉ざしていた。

誰もが何かを察している。
だが、それを言葉にする者はいない。

その沈黙の中で、アメリアだけが異質だった。
十四歳という年齢もそうだが、それ以上に、彼女の視線が「戦場」を向いていないことが周囲と噛み合っていなかった。

平静を装ってはいる。
だが、実際には不安が胸の奥で渦巻いている。

それに気づいたのは、姉のローラ・レインウェイルズだけだった。

突然、アメリアの手に温もりが重なる。
ローラが、何も言わずに妹の手を包み込んだのだ。

「不安なの?」

問いかけに、アメリアは小さく頷く。
嘘をついても意味がない。姉は、誰よりも彼女を理解している。

そしてローラは、いつも通りの言葉をかけた。

「……大丈夫。何も起きないわ」

この言葉は、過去のアメリアにとって“事実”だった。
姉はこれまで、約束を破ったことがなかったからだ。

だが読者は知っている。
この言葉が、どれほど残酷なフラグとして機能するかを。


知らされない作戦と、大義の断片

アメリアが目を閉じると、馬車の揺れに混じって、大人たちの会話が耳に入ってくる。

鉄仮面がいないこと。
エミリーがいないこと。
領主が動いたこと。
王家が関わっているらしいこと。

だが、それらは断片的で、決定的な説明にはならない。

彼らが知らされているのは、「東部地区で暴動が起きた」「支援に向かう」という表向きの理由だけだ。
実際には、オルクルスに対する大規模な軍事行動が始まっている。

それを理解している者は、ほとんどいない。

なぜ、事前説明がなかったのか。
なぜ、今日になって突然動員されたのか。

答えは単純だ。
極秘作戦だからではない。
知らなくても使える駒だと思われているからだ。

「主力は別にいる」
その認識が、無意識の油断を生む。

そしてアメリアは、その油断の中に放り込まれた。


東部地区の境界線

やがて馬車は止まる。
ここから先は徒歩だ。

東部地区との境界に立った瞬間、空気が変わる。
血の匂い。
崩れ落ちた建物。
遠くで響く爆発音と、悲鳴。

いま起きているのは、単なる「鎮圧」ではない。
戦争だ。

アメリアの身体は、再び震え出す。
つい先ほどまで落ち着いていたはずなのに、現実を前にして、感情が制御できなくなる。

ローラは、もう一度、妹の手を強く握る。

「心配しないで。私が守るから」

その言葉は、過去のアメリアにとって、絶対の安心だった。
だが、皮肉なことに――

その手を握られるほど、
胸の奥に、言いようのない予感が膨らんでいく。


記憶から目覚める現在のアメリア

場面は切り替わる。
アメリアは、記憶から引き戻される。

ここは現在。
そして彼女は、もう十四歳ではない。

東部地区――
二十年前、地獄が始まった場所。

当時の詳細は、鮮明には思い出せない。
あまりにも多くの死と混乱が、一気に押し寄せたからだ。

だが、自分がどこへ向かい、何をしようとしていたのか。
その“動線”だけは、忘れようがなかった。

この二十年間、彼女は後悔と共に生きてきた。
あの日を、何度も反芻しながら。

だからこそ、迷いはない。

アメリアは走り出す。
かつての自分が、確実に辿った道へと。

包囲戦という幻想

アメリアが辿り着いた東部地区の入口には、すでに多数の探索者が集結していた。
数は数百。
いずれも領主に召集され、詳しい説明もないまま配置された者たちだ。

形式上は「包囲戦」だった。
燃え広がる市街から逃げ出してくる敵を外へ逃がさず、挟み撃ちにする――それが彼らに与えられた役割である。

だが、その実態はずさんだった。
指揮系統は曖昧で、敵の規模も戦力も知らされていない。
彼らが共有しているのは、「王家の騎士団と領主直属の精鋭が主戦場を制圧している」という安心感だけだった。

つまり、自分たちは“掃除役”だという認識である。


再会と、変えられない立ち位置

アメリアは人波の中に、探していた人物を見つける。
クラン長のペリック・バーカーだ。

「来たか」

驚いた表情を浮かべつつも、彼はすぐに状況を理解したようだった。
城の混乱を見て駆けつけた――その説明に、深く追及することはない。

「鉄仮面は?」

「眠っているので、置いてきました」

その言葉に、ペリックはわずかに眉をひそめる。
だが、すぐに納得したように視線を逸らした。

ビョルン・ヤンデルが遅刻する理由として、二日酔いは珍しくない。
この場にいないこと自体が、異常とは見なされなかった。

アメリアは、過去の自分と姉のローラの隣に立つ。
ぎこちない挨拶が交わされる。

これまで、彼女は二人と積極的に関わってこなかった。
それでも、今回は違った。

「……離れないで」

「え?」

「守るから」

唐突な言葉に、少女たちは戸惑いながらも頷く。
アメリアが“強い”ことを知っているからだ。

その優しさが、遅すぎることを、彼女自身が一番理解していた。


報酬が倫理を上書きする瞬間

やがて号令がかかる。
前線に立つ探索者たちが、次々と交代で配置されていく。

だが、状況は危機的とは程遠かった。
逃げ出してくるのは、統制を失った集団。
多くは一般市民で、戦闘能力を持たない者も混じっている。

それでも、刃は振るわれた。

「逃げるな! 殺せ!」

この叫びは、正義ではない。
恐怖でもない。

仕事の合図だ。

「耳を集めろ! 装備も剥げ!」

報酬が明確に提示されることで、殺戮は“作業”へと変わる。
誰が敵で、誰が市民なのか。
そんな区別は、効率の前では無意味だった。

違和感を覚える者も、確かにいた。
だが、それは少数派だ。

大半の探索者にとって、これは「楽な稼ぎ」だった。
遠征よりも危険が少なく、報酬は高い。

アメリアの表情は、硬くなる。
この都市で生まれ育った彼女にとって、この光景は耐え難いものだった。

そして、彼女だけが知っている。
この浮かれた空気が、どれほど脆いものかを。


ただ一人、歩いてくる異物

違和感は、唐突に現れる。

「……誰か来るぞ」

群衆の中の誰かが、そう呟いた。
声は周囲の喧騒にかき消されるはずだったが、不思議と皆の耳に届いた。

一人の男が、東部地区の奥から歩いてくる。

単独。
逃げるでも、隠れるでもない。

これまで、逃走者は集団だった。
数十、数百単位で、なりふり構わず押し寄せてくる。
それが“普通”だった。

だが、この男は違う。

血に濡れた黒い衣服。
にもかかわらず、破れも傷もない。

足音が、やけに重く響く。

探索者たちは、次第に口を閉ざす。
戦利品を嗅ぎ分ける勘が、ざわつき始めていた。

剣は、一見すると平凡だ。
だが、それを帯びている人物が異常だった。

「……違うよな?」

「誰か、顔を知ってるか?」

誰も答えない。
否定したい。
だが、否定できない。


炎が届かない瞬間

距離が五十メートルほどに縮まった時、誰かが焦って攻撃を放つ。
火炎放射だ。

だが――
炎は、男に届く前に消えた。

空気が、凍りつく。

それが何を意味するのか、分かる者は分かっていた。

「……無炎の霊だ」

能力を、能力として成立させない力。
五階層の支配者が持つ権能。

歴史上でも、指で数えるほどの人間しか到達していない領域。
そして、この時代にそれを持つ者は、一人しか知られていない。

裏切り者。
オルクルスの創設者。
かつて“剣聖”と呼ばれた男。

リカルド・リウヘン・プラハ。

彼は何も語らない。
ただ、剣を構えた。


逃走という唯一の選択

誰かが叫ぶ。

「に、逃げろ!」

統制は一瞬で崩壊する。
探索者たちは背を向け、走り出す。

だが、その判断は遅すぎた。

剣が振るわれる。
一閃。

光が走り、視界が白く染まる。

そして――
二十年間、何度も何度も再生されてきた悪夢が、再び始まった。

考察|この地獄は「敗北」ではなく「構造の必然」

第320話で描かれる惨劇は、戦術的な敗北ではない。
包囲が崩れたからでも、数が足りなかったからでもない。

最初から、成立していなかった。

東部地区で行われていたのは「戦争」ではなく、「処理」だった。
上層部が決めた方針を、末端が知らないまま実行する。
敵の規模も、性質も、想定外の存在も――すべて伏せられたまま。

だからこそ、剣聖リカルド・リウヘン・プラハが現れた瞬間、すべてが瓦解した。
彼は戦況を覆したのではない。
戦況という前提そのものを否定した存在だった。


能力考察|《無炎の霊》が意味するもの

《無炎の霊》の恐ろしさは、単なる能力無効化ではない。
それは「戦闘という行為の前提」を破壊する力だ。

探索者の戦闘は、基本的にスキルの応酬で成立している。
攻撃、補助、防御――
すべてが“能力が発動する”という前提の上に組み立てられている。

だが《無炎の霊》は、その前提を消す。

炎は届かない。
魔法は意味を持たない。
強化も、補助も、存在しなかったかのように失効する。

結果として残るのは、純粋な身体性能と剣技だけだ。

そして、その領域において、
リカルドは“到達点”に立つ存在だった。

数で囲むという発想は、
彼を「通常戦闘の延長線上」に置いた時点で破綻している。


群衆心理の崩壊|「仕事」は一瞬で「死」に変わる

探索者たちが壊滅した最大の理由は、恐怖ではない。
油断だ。

彼らは、自分たちが危険に晒されているという前提を持っていなかった。
主力は別にいる。
自分たちは掃除役だ。
逃げる敵を処理するだけだ。

だから、殺戮は作業になった。
報酬が提示され、倫理が効率に置き換えられる。

だが、その構造は極端に脆い。
「狩る側」という立場が一瞬で崩れた時、
彼らは何もできない。

逃走という選択が遅れたのは、
彼らが“逃げる必要がある存在”だと認識していなかったからだ。


アメリアという視点|なぜ彼女だけが「知っていた」のか

この回が特異なのは、
惨劇そのものよりも、それを知っている語り手が存在する点にある。

アメリアは、この地獄を二十年前に体験している。
だが、詳細は思い出せない。
それほどまでに、現実が過酷だった。

それでも、
・自分がどこにいたか
・誰と並んでいたか
・どこから破綻したか

その“流れ”だけは、身体に刻まれている。

彼女が現在の視点で動き出したのは、
未来を変えようとしたからではない。

避けられないと知っているからこそ、立ち会おうとしたのだ。


構造的必然|なぜ「この日」は回避できなかったのか

もし、事前に説明があったら?
もし、探索者が撤退を想定していたら?
もし、剣聖の存在を知っていたら?

いずれも、成立しない仮定だ。

なぜなら、この作戦は
「末端が理解してはいけない」構造で組まれているからだ。

王家、領主、騎士団。
彼らにとって重要なのは、
・オルクルスの弱体化
・東部地区の制圧
・邪魔な存在の排除

探索者の生死は、計算に含まれていない。

この日が地獄になることは、
上層にとっては織り込み済みだった。


記憶が再生された意味|ビョルン編との接続

前話までで描かれてきたのは、
「記録」「歴史」「偽装」という概念だった。

第320話は、それを別の角度から補強している。

この地獄は、
・記録には「オルクルス壊滅戦」として残る
・王家と領主の正当性は揺らがない
・犠牲になった探索者は“必要な損耗”として処理される

つまり、歴史は正しく記録されるが、正義は検証されない

アメリアの記憶は、
その“記録されない部分”そのものだ。

だからこそ、今このタイミングで再生された。


次回への布石|剣聖は「敵」なのか

リカルド・リウヘン・プラハは、
単なる敵役ではない。

彼は、
・王家
・領主
・オルクルス

そのすべてと敵対しながら、
どこにも属していない。

彼の剣は、正義を語らない。
だが、嘘もつかない。

この地獄を引き起こしたのが誰なのか。
誰が最初から捨てられていたのか。

それを、彼の存在が突きつけている。

第320話は、
アメリアという“記憶の生存者”を通して、
世界の歪みを読者に見せつける回である。

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