『転生したらバーバリアンになった』小説版・第321話ロングあらすじ【初心者向け・保存版】

転生したらバーバリアンだった
Surviving the Game as a Barbarian | Chapter: 321 | MVLEMPYR
Jerome Saintred, Captain of the 1st Royal Knight Order. The young knight in his mid-twenties who ascended to the positio...

【徹底解説】役割が交差する瞬間と選ばれた行動|『転生したらバーバリアンだった』第321話あらすじ&考察


導入

この回で問われるのは、強さではない。
誰が勝つのか、誰が正しいのかでもない。

誰が、何の役割を与えられているのか。

第321話「Role」は、同じ一日を複数の視点から描きながら、登場人物たちが“自分に割り当てられた役割”から逃げられない構造を浮かび上がらせる回である。
王家、ビョルン、アメリア、そして剣聖。
それぞれが別の場所で、別の理由から同じ歯車を回している。

物語はまず、王家の側から始まる。
ここで示されるのは、戦場の正義ではなく、目的のために人がどう使われるかという現実だ。


詳細あらすじ

王家の騎士団長という「役割」

ジェローム・セイントレッド。
第一王立騎士団長という地位に就いたばかりの、二十代半ばの若き騎士だ。

その席は、本来なら彼のものではなかった。
前任者は“血の騎士”に殺され、空席となった場所に、彼は押し上げられるように座っている。

ジェローム自身も理解している。
自分は英雄として選ばれたのではない。
必要だったから、そこに置かれただけだ。

だからこそ、彼は命令に忠実だった。
東部地区が戦場になっている今、彼が城の地下にいる理由も、単純である。

王家が領主に差し出した「反乱鎮圧への協力」は建前。
本当の目的は、都市に兵を入れるための口実だった。

狙いはただ一つ。
《記録の断片》。

領主の側近からの情報によれば、それは常に身につけられており、首飾りの形をしている可能性が高い。
ジェローム自身は、その価値も用途も深く知らない。

だが関係ない。
彼の役割は、手に入れて、王宮へ持ち帰ること
それだけだった。


地下への侵入と、異変の兆し

暗い階段を下りながら、ジェロームは短く息を吐く。
もし古代の避難区画の存在を知らされていなければ、この計画は最初から破綻していた。

情報とは、それだけで戦力になる。

一段、また一段。
足音が、重く地下に響く。

その途中で、彼は足を止めた。

階段の途中に、男の死体が横たわっていたからだ。
顔を伏せ、装備をすべて剥ぎ取られ、ほぼ裸同然の状態。

致命傷は頭部。
刃物ではない。
鈍器による一撃だ。

ジェロームはしゃがみ込み、傷口に指を当てる。
冷静に、しかし迅速に状況を確認する。

「……30分も経っていない」

この短い判断は、焦りではない。
競合の存在を即座に理解した証拠だった。

自分より先に城へ侵入した者がいる。
そして、その標的もまた――領主。


一歩遅れた現実

ジェロームは駆け下りる。
広い通路。
開いたままの石扉。

だが、そこにあったのは、生きた領主ではなかった。
鈍器で叩き潰された、巨体の死体。

首元には、引きちぎられた痕跡。
ネックレスがあったであろう位置だけが、不自然に空いている。

《記録の断片》は、すでにない。

「……遅かったか」

唇を噛みしめるが、立ち尽くることはしない。
任務は失敗していない。
まだ、終わっていない。

侵入者が《記録の断片》を持っている以上、行動範囲は限られる。
三十分。
この差は、致命的ではない。

ジェロームは踵を返し、来た道を引き返す。
撤退ではなく、追跡を選ぶ。

王命を受けた者に、
「もう終わった」という選択肢は存在しない

それが、彼に与えられた役割だった。

観測と改変、その隙間

観測された未来は変えられないのか

時間線は、すでに観測されている。
この世界において、それは「確定した未来」とほぼ同義だった。

アウリル・ガビスが残した言葉は、その厳然たる前提を示している。
一度観測された時間線は、完全には変更できない。

だが、ビョルン・ヤンデルはそこで思考を止めなかった。
彼が目を向けたのは、「変えられない」という結論ではなく、観測という行為そのものの精度だった。

もし、観測に誤差があったとしたら。
もし、世界が“そう見えた”だけだったとしたら。

死は、事実として記録される。
だが、その死が本物かどうかを、世界は検証しない。

この仮説は、背筋が冷えるほど危険だった。
同時に、理屈としては成立している。


最大の障壁――アメリアの記憶

理論上は可能でも、現実は甘くない。
最大の障壁は、アメリア自身だった。

彼女は姉の死を目撃している。
腕の中で、確かに息絶えた姿を見ている。

それは噂でも、記録でもない。
体験した事実だ。

かつてドゥワルキーがラルカスの迷宮で経験したように、
“目で見た死”は、容易に偽れない。

ましてやアメリアは、幼少期から無数の殺しを経験している。
生と死の境界を、感覚で理解している人間だ。

彼女を欺く。
その難易度は、想像するだけで頭が痛くなる。

「……どうする?」

思考は、振り出しに戻ったように見えた。

だが、ビョルンの内心は以前とは違っていた。
完全な答えはなくとも、方向性は見えている。


まだ終わっていないという確信

突破口は、意外なところにあった。
それは、領主の遺した言葉だ。

《記録の断片は、やるべきことを終えた時に起動する》

逆に言えば――
まだ起動していないという事実そのものが、役割未達を示している

つまり、ビョルンにはまだ“やるべきこと”が残っている。

それが何かは、分かっている。
必要なのは、道具だ。

記憶を書き換えるのではない。
記憶を消す

それは倫理的には禁忌であり、
同時に、この世界では極めて危険な技術だった。

だが、だからこそ有効でもある。

「……役割は、まだ終わっていない」

この認識は、開き直りではない。
記録と現実の齟齬を、意図的に作り出すための前提だった。


錬金術工房への突入

ビョルンは迷わなかった。
確率は、ただの数字だ。

扉が開いているかどうか。
中に人がいるかどうか。
それらは、行動を止める理由にならない。

彼は肩で錬金術工房の扉を叩き破る。

中にいたのは、マルパ・イパエロではない。
怯えた様子の老人が、一人。

問いかけに、老人は視線を逸らす。
そして、ビョルンは気づく。

ローブに留められた、錬金術師の証。
しかも、正規の所有者ではない。

理解は早かった。
混乱に乗じた盗賊だ。

交渉は不要だった。

非戦闘員であることは、免罪符にならない。
時間と情報を奪う存在は、排除対象だ。

ハンマーが振り下ろされる。
一撃で終わる。


禁忌の道具

老人の持っていたサブスペースから、
ビョルンは目的のものを見つける。

《レテの祝福》試作品。

記憶を、完全に消去する消耗品。
使い方を誤れば、自我そのものが崩壊しかねない代物だ。

だが、これで第一段階は整った。

次にやるべきことは、一つ。

アメリアと合流する。

連絡手段はない。
だが問題はない。

六時間。
それだけ経っていれば、彼女は――

生き延びている。

そして、逃げている。

ビョルンは走り出す。
だが、その前に。

「見つけたぞ」

銀髪の騎士が、工房の入口に立っていた。

「《記録の断片》を渡せ」

また、役割を押し付けられた者だ。

王家の犬。
あるいは――
自分と同じ、歯車。

剣聖の戦場と、アメリアの選択

剣は“技”ではなく“在り方”を示す

東部地区の戦場で、剣聖リカルド・リウヘン・プラハは、ただ歩いていた。
追い詰めるでも、包囲するでもない。
逃げ惑う探索者たちの動線を、あらかじめ知っているかのように。

彼の剣は、決して派手ではない。
山のような威圧感を放つオーラもなければ、形を自在に変える技巧もない。
それでも――

「あれは、剣じゃない。殺しそのものだ」

この短い言葉が示す通り、
彼の剣技は“勝つため”ではなく、“殺すため”に最適化されている。

数百人の探索者が、一太刀も耐えられない。
理由は単純だ。
彼らは、同じ土俵に立っていない。

リカルドは戦闘をしていない。
処刑をしている


逃げない理由――アメリアの現在地

探索者たちが次々と背を向ける中で、アメリアは立ち止まった。
それは勇気ではない。
無謀でもない。

彼女は知っている。
ここで逃げれば、すべてが“あの日”と同じになる。

数か月間、同じ屋根の下で過ごした人間たち。
仲間と呼べるほど親しくはなかった。
だが、無関係でもなかった。

そして何より――
今この場にいる自分には、できることがある

アメリアはクラン長ペリック・バーカーの名を呼ぶ。
振り向いた瞬間、彼の首に細い針が突き立つ。

身体が凍りつき、動かなくなる。
彼女はためらいなく、彼を担ぎ上げた。

「裏切り者!」

怒号が飛ぶ。
武器が向けられる。

だが、彼女は一切、動じない。

「……離れないで」

この言葉は、過去の自分に向けたものでもあった。
守るための言葉であり、
同時に、自分を縛る決意でもある。

一人を斬り捨てると、
残りの探索者たちは一瞬、逡巡し――逃げ出した。

指導者を失った集団が、命を賭ける理由はない。


《不公平契約》という呪い

なぜ、姉妹は逃げなかったのか。
それは忠誠心ではない。

ペリック・バーカーは、ローラ・レインウェイルズに
《不公平契約》を結ばせていた。

致命傷を負った瞬間、
彼の命を代償に、ローラの生命力が吸い取られる契約。

だから彼女たちは、残るしかなかった。
失敗すれば、姉が死ぬ。

だが、その構造は――
剣聖の能力の前で崩れる。


能力の相殺と“役割の達成”

アメリアは走る。
逃げるためではない。

剣聖へ向かって。

《深淵の力》が発動し、
彼女のオーラは黒く染まる。

四等級聖水由来のこの力は、
マナを持たない彼女にとって、奇跡のような能力だった。

しかし――
一定距離に入った瞬間、それは霧散する。

《無炎の霊》。
すべての能力を無効化する、支配的権能。

だが、アメリアは止まらない。

それでいい。

能力が消えたということは、
《不公平契約》もまた、無効化されている。

彼女はペリックを投げ捨てる。
剣聖の刃が一閃し、男の身体は両断された。

契約は、発動しない。

一つの呪いが、ここで終わった。


剣聖の感情と、奇妙な言葉

アメリアは踵を返し、全力で距離を取る。
だが、剣聖は追ってくる。

初めて、彼の表情に感情が浮かんだ。

興味

「利用されたな」

その声音には、怒りが滲んでいる。
だが、完全な拒絶ではない。

その瞬間、
アメリアの脳裏に、かつてビョルンが口にした言葉がよぎる。

この世界には存在しない、奇妙な感情表現。

「……キモチイイ」

意味も、使い方も、正確ではない。
それでも、その言葉だけが、
この瞬間のすべてを言い表していた。


考察|「役割」は選べるのか

第321話が示したのは、
人が“役割を与えられる存在”であるという現実だ。

ジェロームは王家の役割を背負い、
ビョルンは観測の誤差を突く役割を選び、
アメリアは“犠牲を終わらせる役割”を引き受けた。

重要なのは、
彼らがその役割を自覚した上で行動している点である。

役割は押し付けられる。
だが、それをどう果たすかは、選べる。

アメリアは、
逃げる役でも、死ぬ役でもなく、
終わらせる役を選んだ。


次回への布石

  • 《レテの祝福》は、誰の記憶を消すのか
  • ジェロームは「役割」から逸脱できるのか
  • 剣聖リカルドは、敵か、装置か

第321話は、
「役割」という言葉に、
初めて“選択”という意味を与えた回である。

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