『転生したらバーバリアンになった』小説版・第384話ロングあらすじ【初心者向け・保存版】

各話考察
Surviving the Game as a Barbarian | Chapter: 384 | MVLEMPYR
「The labyrinth is closed.」 「Character is being transferred to Lafdonia.」 The sunlight of the city after almost two month...

【王都の陰謀と突然の逮捕】政治の影が迫る帰還後の一週間|『転生したらバーバリアンだった』第384話あらすじ&考察

導入

第384話は、アトランテ探索を終えた直後の“帰還回”でありながら、単なる休息回では終わらない。
むしろこの一話は、迷宮で積み上げてきた成果が、地上の政治や人間関係へどう接続されるのかを示す、非常に重要な橋渡しの回になっている。

暗く冷たいアトランテから戻ってきたビョルン・ヤンデルたちを迎えるのは、久しぶりの太陽と都市の喧騒だ。
だが、その明るさは安堵を与える一方で、迷宮の中では見えにくかった別種の危険――監視、政治、権力、疑念――を改めて浮かび上がらせる。

特に今回印象的なのは、迷宮の外に出たからといって緊張が解けるわけではないことだ。
むしろ都市に戻った瞬間から、ビョルンたちは「探索者の戦い」ではなく、「情報を抱えた者の戦い」に踏み込んでいく。

地下牢のような地下室。
毒を使ったと見せかける支配。
久しぶりに訪れるレイヴンとの微妙な距離感。
そして王都政界へ伸びていく不穏な線。

この回の前半では、派手な戦闘はない。
だがその代わりに、帰還後の生活空間そのものがじわじわと不穏に染まっていく感覚がある。
迷宮の怪物よりも、人間社会の方がよほど息苦しい――そんな本作らしい空気が、静かに濃くなっていく回だ。

まずは、二ヶ月近い暗闇の探索を終えた直後、ビョルンが久しぶりの太陽を浴びる場面から見ていきたい。


迷宮閉鎖――二ヶ月ぶりの太陽

「迷宮は閉鎖された。」

その宣告とともに、ビョルンたちはラフドニアへ転送される。

アトランテで過ごした日々は、暗さと湿気と閉塞感に満ちていた。
しかも最後の数日は、海底都市特有の水と闇に囲まれた環境だったため、地上へ戻った瞬間の感覚はなおさら強い。

街の陽光。
薄曇りの空でさえ、今のビョルンには眩しく感じられる。

迷宮の出口に立った彼が、思わず心の中で呟くのも無理はない。

「人間には太陽が必要だ」

この一言は、単なる環境描写以上の意味を持っている。
アトランテでの探索は、確かに大きな成果をもたらした。
新たな聖水(Essence)、大量の魔石、そして戦力の上昇。
だがその反面、そこで過ごす時間は、人間としての感覚を少しずつ削るものでもあった。

暗い場所に長くいると、思考が狭くなる。
身体だけでなく、心も“迷宮のリズム”に合わせて閉じていく。
だからこそ、地上に戻って太陽を浴びた瞬間、ビョルンは自分がまだ人間の側にいることを実感したのだろう。

もっとも、その安堵は長く続かない。
地上に戻れば戻ったで、今度は別の面倒が待っているからだ。

ビョルンはすぐに空を見上げるのをやめ、検問所へ向かう。
探索の終わりは、街への再突入にすぎない。
ここから先は、戦利品の換金、同行者の処理、帰還後の立ち回りといった、迷宮の外ならではの現実が始まる。

その検問所で、最初に手を振ったのはエルウィンだった。


検問所での合流――日常に戻ったようで戻れていない

「ここにいた!」

ビョルンが検問所へ向かうと、すでにエルウィンが待っていた。
彼女は人混みの中でもすぐ分かるくらい、真っすぐにこちらへ手を振っている。

その光景には、どこか日常的な安心感がある。
迷宮から戻ったあと、仲間が待っている。
それだけで、一瞬だけ「帰ってきた」と思える。

ビョルンはエルウィンと合流し、列に並ぶ。
ほどなくして、アメリア・レインウェイルズも姿を見せた。

「遅いな」

ビョルンが言うと、アメリアは淡々と返す。

「思ったより時間がかかった」

視線の先には、気まずそうに立つ航海士――グエン・ロクロブの姿があった。

彼は以前こちらに刃を向けた側の人間であり、今はかろうじて生かされている存在だ。
迷宮の中では、恐怖と状況に押されて従っていた。
だが地上へ戻ってからも本当に逃げなかったのか、ビョルンは少し気になっていた。

「本当に第7地区の広場で待ってたのか?」

そう聞くと、アメリアは即答する。

「嘘はつかない」

断定が妙に強い。
たった数日でそこまで言い切るのもどうなんだ、とビョルンが思うのも自然だ。

だが、彼はそこを深く突っ込まない。
アメリアのこういうところは、理屈というより“観察して見切った結果”なのだろう。
彼女は人を信用するというより、利用可能かどうかで判断する。
その意味では、今の航海士は「逃げない人間」なのではなく、「逃げられないと理解している人間」として処理されているのかもしれない。

「何か問題はなかったのか?」

「なかった。ちゃんと待ってた」

どこか誇らしげですらあるアメリアの声音に、ビョルンは少しだけ拍子抜けする。
命令通りに動くことが、そこまで嬉しいのか。
いや、違うのかもしれない。

おそらく彼女にとって重要なのは、
**“制御が効くことが確認できた”**という事実だ。

その横で、航海士はビョルンと目が合った瞬間に、ぎこちない笑みを浮かべた。

「へ、へへ……」

完全に愛想笑いだ。
哀れにも見える。

だが、ビョルンはそこで必要以上の同情をしない。
この男もまた、自分たちを襲った側の一員だった。
今こうして生きているだけでも、十分に温情を受けている方だ。

やがて列が進み、彼らは換金所へ到着する。
アトランテで手に入れた大量の魔石を金に変え、検問を通過する。

ここまでは、探索者としての手続きだ。
だが街の中へ一歩踏み込んだ瞬間、空気はまた変わる。


都市での隊列――逃がさないための日常

混雑したラフドニアの通りへ入ると、自然と隊列が変わる。

迷宮ではビョルンが先頭で敵を受け、後衛が支える形が合理的だった。
だが都市では事情が違う。

ここで警戒すべきなのは魔物ではない。
逃走、通報、余計な接触だ。

そのため隊列は、監視に特化した形へ変わる。

後ろにはアメリア。
そのすぐ前に航海士。
つまり、最も逃がしたくない相手の背後を、最も冷酷に対処できる人間が取る配置だ。

「はは……に、逃げませんよ……」

航海士が乾いた声で言う。
それに対し、アメリアは短く返す。

「道に迷うかもしれない」

「俺、第7地区に二十年住んでるんだけど……」

ぼそりと漏らす航海士の言葉には、かすかな抵抗と諦めが混じっている。
だが彼は、それ以上何も言わない。

ビョルンはそのやり取りを聞きながら、内心で少し整理する。

この男は、もう完全に“物”として扱われ始めている。
もちろん表面上は人間として会話しているし、食事も与えられる。
だが本質的には、彼の自由意思はかなりの部分で剥ぎ取られている。

それでも、今のビョルンにそれを止める理由はない。
むしろ必要な措置だと理解している。

迷宮の中では、命を奪うか生かすかの判断が目立つ。
だが街の中では、それより厄介な段階がある。

「生かした上で、どう管理するか」

そこに入った瞬間、善悪よりも運用が問題になる。
この作品らしい嫌な現実味は、まさにそこにある。


拠点帰還――“普通の家”では済まない異様さ

やがて一行は家へ到着する。

三階建ての一戸建て。
外から見れば、十分に立派な家だ。
だがグエン・ロクロブは、門をくぐった瞬間に目を見開いた。

「こ、ここが……?」

驚きには、羨望よりも戸惑いの方が強い。
それもそのはずだ。
この家は一見すると裕福な住居だが、細部を見ると妙におかしい。

特に目立つのが窓だ。
いくつもの窓が板で打ち付けられ、半ば封鎖されている。

「で、でも……どうして窓が全部……」

言いかけた航海士に、ビョルンは短く答える。

「防犯だ。気にするな」

「は、はい……」

それ以上、彼は何も聞かない。
だが、その目には好奇心と恐怖が色濃く残っていた。

どんな連中が、こんな家に住むのか。
何を警戒して、ここまで閉ざした作りにしているのか。

普通に暮らしている人間の家には見えない。
そう感じるのは当然だった。

そしてビョルン自身も、この家が単なる住居ではなく、有事を前提にした拠点だと改めて実感する。
迷宮から戻ったばかりの一行にとって、こういう場所は都合がいい。
だが“都合がいい”という事実そのものが、すでに平穏から遠い。

さらにビョルンは、航海士の視線の動きから別のことも考える。

(……こいつ、エルウィンのことをもう知ってるのか?)

家の規模、立地、雰囲気。
それらを見れば、ここに住む者がただ者ではないと察するだろう。
しかもエルウィンは隠し立てのできるタイプではない。
彼女の正体や立場に気づかれている可能性もある。

この確認は後回しにするしかないが、火種が増えた感覚だけは残る。


地下室――エルウィンの“念のため”が重すぎる

家の中に入ったあと、簡単な相談の末に航海士へ空き部屋を与える方針になる。
ただし、その場所は地下だった。

「……地下? うちに地下なんてあったか?」

ビョルンがそう聞くと、エルウィンは少し顔を赤くする。

「念のため、地下室のある家を選んだんです」

その言い方は控えめだが、含まれている内容はかなり重い。
“念のため”とは何に備えてのことなのか。
普通の生活を前提にした家探しなら、地下室はそこまで重要な条件ではない。

だがエルウィンは、それをあらかじめ必要だと思っていた。

ビョルンはそこで、富裕層のパニックルームのようなものを連想する。
襲撃時の避難場所、あるいは貴重品の保管場所。
そういう意味なら、まだ理解できる。

だが実際に案内された地下は、もう少し別の匂いがした。

ギシ、ギシ、と床板が軋む音。
エルウィンはカーペットをめくり、隠された仕掛けを操作する。
すると、地下へ続く階段が現れた。

降りた先には、広い物置のような空間。
何も置かれていないが、それが逆に不気味だ。

さらに奥には、分厚い鉄扉がある。
鍵付きだ。

エルウィンがそれを開けると、中には大きなベッドが置かれた部屋が現れた。
浴室もある。
シャワーもある。
生活するだけなら不便は少ない。

だが壁には――手枷を固定するための金具があった。

それを見た瞬間、航海士の顔から血の気が引く。

「こ、ここ……牢屋じゃ……」

その反応は正しい。
ビョルンもまったく同じ感想を抱いたからだ。

むしろ、彼もまた一瞬ぞくりとした。
地下へ降りた瞬間から感じていた薄い寒気が、ここで確信に変わる。

これは普通の地下室ではない。
どう見ても、誰かを閉じ込めておくための部屋だ。

そしてさらに怖いのは、それを案内しているエルウィン本人が、あまりその異様さを自覚していないように見えることだった。

「牢屋? 普通の部屋ですよ」

さらりと言う。
しかも続けて、

「ほら、お風呂もシャワーもあります。好きに使っていいです。他の人は使いませんし」

と説明する。

優しさのつもりなのだろう。
だが、その親切さが逆に怖い。

外に出られない。
鍵がかかる。
壁には拘束具。
それでいて生活環境だけは整っている。

その構造は、まさに“人道的な監禁”そのものだった。

ビョルンはそこで、自分でも妙な動揺を覚える。

(なんでこんなに心臓が速いんだ……?)

閉所恐怖症ではない。
それなのに、この地下空間には、本能的な圧迫感がある。

おそらくそれは、空間そのものへの恐怖ではない。
この部屋を用意していたエルウィンの発想に、無意識でぞくりとしているのだ。

彼女は純粋だ。
善良でもある。
だがその善良さは、ときに「相手をきちんと管理する」方向へまっすぐ進む。
悪意がない分、かえって怖い。

ビョルンはそれ以上考えないようにして、航海士を中へ押し込む。
そして扉を閉めた。

すぐさまエルウィンが鍵をかける。

カチリ、と乾いた音が響く。

「ま、待ってくれ! ちょっと待て!」

扉を叩く音が始まるが、誰も取り合わない。

その場でアメリアが静かに言った。

「鍵は私が持つ」

「分かった」

こうして、航海士の住居問題は片付いた。
少なくとも形式上は。

だが、ここで終わりではない。
むしろこのあと、もう一つ妙な確認が入る。

ビョルンは以前から気になっていたことを、アメリアに尋ねる。

「アメリア。本当にそんな毒があるのか? 毎日解毒剤を飲まないと死ぬって言ってたけど、聞いたことがない」

あまりに都合がよすぎる設定だった。
まるで武侠ものに出てくる支配用の毒だ。

本当に存在するなら便利だし、逆に危険でもある。
だからビョルンは確認した。

するとアメリアは呆れたように言う。

「シュイツって、案外お人好しね」

「……は?」

「そんな毒、あるわけないでしょう。幸い、あいつは毒に詳しくなかっただけ」

やはり、ブラフだった。

ビョルンは半ば予想していたものの、実際に聞くと少し拍子抜けする。
だが、それ以上に面白かったのは、この会話に反応した人物がもう一人いたことだ。

「えっ……」

エルウィンが目を見開いた。

「その毒……本物じゃないんですか?」

声色には驚きだけでなく、どこか残念そうな響きすら混じっている。

ビョルンは思わず、何に使うつもりだったのかと聞きたくなる。
だがエルウィンは視線を逸らし、

「そ、その……念のため……」

と曖昧にごまかす。

“念のため”が多すぎる。
しかも、その念のためがだいたい物騒だ。

ビョルンは問い詰めても答えが出ないと悟り、その場では流した。
だがこの一連のやり取りによって、帰還後の家の空気が、かなり独特な方向へ固まりつつあることだけははっきり分かる。

ここは安息の場ではない。
敵から身を守るための拠点であり、
必要なら人を閉じ込め、騙し、管理するための場所でもある。

そして、その現実に順応しつつある自分自身の感覚もまた、ビョルンにとっては少し薄気味悪いものだった。

戦利品処理――迷宮帰還後のもう一つの戦い

迷宮から帰還した初日は、ほとんど休息に費やされた。

アトランテ探索は、肉体的にも精神的にも負荷が大きい。
水没都市という特殊環境、深海系モンスターの圧力、そして連続した狩り。
その疲労は、迷宮を出た瞬間に消えるものではない。

だから初日は何もしない。

食事をとり、体を休め、久しぶりに柔らかいベッドで眠る。
それだけで一日が終わる。

だが翌日からは事情が変わる。

探索の本当の後処理――戦利品処理が始まるからだ。

迷宮探索の利益は、モンスターを倒した瞬間に確定するわけではない。
魔石、素材、装備、聖水(Essence)。
それらを市場で換金し、加工し、必要なら仲介を通して売却する。

つまり迷宮の戦闘が終わっても、都市での作業という別の戦いが残っている。

そして今回のアトランテ探索は、収穫量が異常に多かった。

特殊フィールドであるアトランテは、危険度が高い代わりに報酬も大きい。
通常の五階層探索よりも、魔石の収入が多いほどだった。

そのため、戦利品の処理には人手が必要になる。

ビョルンはそれを理解していた。

だからエルウィンに声をかける。

「エルウィン、お前も来い」

突然の指名に、彼女は驚いた顔をする。

「え? わ、私? シュイツなら一人でもできるんじゃ……」

それは事実でもある。
ビョルンは市場や換金の手続きに慣れている。

だがアメリアが横から口を挟んだ。

「シュイツのために、それくらいもしないの?」

その言葉を聞いた瞬間、エルウィンの表情が変わる。

「そ、そういう意味じゃないです!」

結局その日から、エルウィンとアメリアは毎日のように街へ出ることになる。

役割は明確だ。

換金と売却。

迷宮で得た魔石や素材を市場に持ち込み、値段交渉をして売る。
一見単純な作業だが、実際にはかなり面倒だ。

なぜなら探索者の市場には、次のような問題があるからだ。

  • 店ごとに買取価格が違う
  • 素材ごとに専門商人が存在する
  • 大量売却すると価格が下がる
  • 希少素材は裏市場に流した方が高い

つまり、ただ売ればいいわけではない

売る順番、売る相手、量の調整。
それらを考えないと、利益は簡単に数割変わる。

アメリアが向いているのは、まさにこういう分野だった。
感情を挟まず、利益を最大化する交渉ができる。

エルウィンもまた、社交的な対応が得意だ。
商人相手のやり取りでは、彼女の柔らかさが役に立つ。

その結果、自然と役割分担が決まった。

外回り担当

  • エルウィン
  • アメリア

拠点防衛

  • ビョルン

そして、もう一つの重要な役割が残っていた。

地下にいる人物の管理である。


航海士の管理――監禁と日常の境界

航海士グエン・ロクロブは、地下室に閉じ込められている。

完全な牢屋ではない。
ベッドもあり、浴室もある。
食事も出る。

だが自由はない。

扉には鍵があり、その鍵はアメリアが持っている。

さらに彼は、毒の存在を信じている。
毎日解毒剤を飲まないと死ぬ――そう思い込んでいる。

実際には存在しない毒だ。
だが、本人が信じている限り効果はある。

こうした心理支配は、探索者の世界では珍しくない。

都市ラフドニアには、さまざまな勢力が存在する。

  • 貴族
  • 商人ギルド
  • 探索者ギルド
  • 私兵組織
  • 裏社会

そのどこでも、人を完全に殺すより、利用する形で拘束する方が便利な場面がある。

例えば

  • 情報源
  • 案内役
  • 取引仲介
  • 人質

今回の航海士も、その一種だ。

彼は経験豊富な航海士であり、都市の地理にも詳しい。
探索者のネットワークも多少持っている。

つまり、殺すには惜しいが、自由にしておくには危険な人材である。

だから地下室という選択になった。

そして、この管理役を担当するのがビョルンだった。

彼の日課は単純だ。

一日三回、地下室へ行く。

食事を運ぶ。

扉を開ける。

部屋の様子を確認する。

そして再び鍵を閉める。

それだけだ。

単純な作業だが、重要な意味がある。

もし航海士が逃げ出せば、

  • 彼らの拠点が知られる
  • ノアークとの関係が露見する
  • 王国側の監視が強まる

といった問題が起きる可能性がある。

つまりこの地下室は、ただの牢屋ではない。

情報封鎖装置でもある。

迷宮の中では、魔物が敵だった。
だが都市では、情報と人間関係が敵になる。

ビョルンは、その違いをよく理解していた。


レイヴンの来訪――かつての仲間との距離

地下の管理と拠点防衛を続けていた三日目。

玄関の扉が叩かれた。

「レイヴン」

ビョルンが扉を開けると、そこに立っていたのはレイヴンだった。

「昨日来るつもりだったんだけど、忙しくてね。入っていい?」

「もちろん」

彼女は家に入り、軽く周囲を見回す。

「他の二人は?」

「戦利品を売りに行ってる」

「ふーん……」

その返事は、どこか含みがあった。

ビョルンが様子を尋ねると、レイヴンは小さく笑う。

「別に何でもない。ただ……」

少しだけ間を置き、彼女は言った。

「昔、ああいう仕事は私がやってたなって思って」

その言葉を聞いて、ビョルンは少しだけ申し訳なくなる。

かつて彼らは同じパーティだった。

迷宮に入り、戦い、利益を分け合う仲間。

だが今は違う。

それぞれ別の立場で動いている。

「悪いな。他に頼める人がいなくて」

ビョルンがそう言うと、レイヴンはすぐに首を振る。

「謝ることじゃない。そもそも、あなたが謝るような話でもない」

その言葉は、優しさでもあり、距離でもあった。

二ヶ月。

迷宮に潜っていた時間は、それほど長くない。
だが人間関係においては、十分に距離ができる時間でもある。

二人はリビングに座り、互いの近況を話す。

「そっちはどうだった?」

「うまくいった。そっちは?」

レイヴンは肩をすくめる。

「戦争は続いてる。終わる気配はない」

王国は今、戦争状態にある。

ラフドニアの周辺では軍の動きが活発化し、探索者も戦争に巻き込まれることが増えている。

つまり迷宮の外でも、世界は安定していない。

むしろ迷宮の中の方が、まだ単純な敵しかいない分、分かりやすいとも言える。


地下からの音――隠された存在

その時だった。

ドン、ドン、ドン!

地下から振動が響く。

レイヴンが顔を上げる。

「今の音は?」

ビョルンは一瞬だけ考え、答える。

「配管工事だ」

嘘だった。

地下では航海士が扉を叩いている。
おそらく何か文句を言っているのだろう。

だがそれを説明するわけにはいかない。

もしレイヴンに地下の存在を知られれば、

  • 監禁
  • 脅迫
  • 毒のブラフ

といった話が一気に露見する。

レイヴンは特に疑わず、話を続けた。

そして会話の最後に、今回の訪問の本題を切り出す。

「そういえば、頼まれてた件」

ビョルンが以前頼んでいた調査だ。

ノアークとの統合提案。

誰がそれを持ち込んだのか。

レイヴンは答える。

「ペプロク子爵夫人」

その名前を聞いた瞬間、ビョルンは驚く。

ペプロク。

その名前は聞き覚えがあった。

ラグナ・リタニエル・ペプロク。

過去で出会った人物の名前だ。

もちろん同名の可能性もある。
だが胸騒ぎが消えない。

ビョルンは確認する。

「子爵夫人の名前は?」

レイヴンは答える。

「ラグナ・ペプロク」

その瞬間、ビョルンの思考が止まる。

本当に、あのラグナなのか。

さらにレイヴンは続ける。

ペプロク家は小貴族だったが、最近爵位を回復した。
しかも急速に政治の中心へ近づいている。

その理由も判明していた。

「後ろ盾がいる」

「誰だ?」

「ラフドニア宰相、テセルリオン侯爵」

ビョルンの頭の中で、政治の構図が急速に組み上がっていく。

宰相の派閥。
ペプロク家の復活。
そしてノアークとの統合提案。

それらが一つの線でつながり始めていた。

しかしレイヴンは続けて言う。

「でも妙なんだ」

「妙?」

「宰相は統合案に強く反対したらしい」

それは矛盾している。

もし宰相が黒幕なら、反対する理由がない。

だがビョルンはすぐに仮説を立てる。

「演技かもしれない」

「演技?」

「強く怒れば、議題そのものが消える」

つまり、議論を封じる政治的演出。

その推理に、レイヴンは少し驚いた顔をした。

「政治に詳しいの?」

ビョルンは肩をすくめる。

「人間に興味があるだけだ」

だが彼自身も確信は持っていない。

情報はまだ足りない。

だから彼はレイヴンに頼む。

「ペプロク子爵夫人を調べてくれ」

レイヴンは頷いた。

「私も気になってた」

こうして会話は終わる。

だがこの情報は、後にもっと大きな事件へとつながっていく。

それを知らせるかのように、
一週間後――

王家の騎士団が、ビョルンの家の扉を破壊して突入してくることになるのだった。

戦利品処理――迷宮帰還後のもう一つの戦い

迷宮から帰還した初日は、ほとんど休息に費やされた。

アトランテ探索は、肉体的にも精神的にも負荷が大きい。
水没都市という特殊環境、深海系モンスターの圧力、そして連続した狩り。
その疲労は、迷宮を出た瞬間に消えるものではない。

だから初日は何もしない。

食事をとり、体を休め、久しぶりに柔らかいベッドで眠る。
それだけで一日が終わる。

だが翌日からは事情が変わる。

探索の本当の後処理――戦利品処理が始まるからだ。

迷宮探索の利益は、モンスターを倒した瞬間に確定するわけではない。
魔石、素材、装備、聖水(Essence)。
それらを市場で換金し、加工し、必要なら仲介を通して売却する。

つまり迷宮の戦闘が終わっても、都市での作業という別の戦いが残っている。

そして今回のアトランテ探索は、収穫量が異常に多かった。

特殊フィールドであるアトランテは、危険度が高い代わりに報酬も大きい。
通常の五階層探索よりも、魔石の収入が多いほどだった。

そのため、戦利品の処理には人手が必要になる。

ビョルンはそれを理解していた。

だからエルウィンに声をかける。

「エルウィン、お前も来い」

突然の指名に、彼女は驚いた顔をする。

「え? わ、私? シュイツなら一人でもできるんじゃ……」

それは事実でもある。
ビョルンは市場や換金の手続きに慣れている。

だがアメリアが横から口を挟んだ。

「シュイツのために、それくらいもしないの?」

その言葉を聞いた瞬間、エルウィンの表情が変わる。

「そ、そういう意味じゃないです!」

結局その日から、エルウィンとアメリアは毎日のように街へ出ることになる。

役割は明確だ。

換金と売却。

迷宮で得た魔石や素材を市場に持ち込み、値段交渉をして売る。
一見単純な作業だが、実際にはかなり面倒だ。

なぜなら探索者の市場には、次のような問題があるからだ。

  • 店ごとに買取価格が違う
  • 素材ごとに専門商人が存在する
  • 大量売却すると価格が下がる
  • 希少素材は裏市場に流した方が高い

つまり、ただ売ればいいわけではない

売る順番、売る相手、量の調整。
それらを考えないと、利益は簡単に数割変わる。

アメリアが向いているのは、まさにこういう分野だった。
感情を挟まず、利益を最大化する交渉ができる。

エルウィンもまた、社交的な対応が得意だ。
商人相手のやり取りでは、彼女の柔らかさが役に立つ。

その結果、自然と役割分担が決まった。

外回り担当

  • エルウィン
  • アメリア

拠点防衛

  • ビョルン

そして、もう一つの重要な役割が残っていた。

地下にいる人物の管理である。


航海士の管理――監禁と日常の境界

航海士グエン・ロクロブは、地下室に閉じ込められている。

完全な牢屋ではない。
ベッドもあり、浴室もある。
食事も出る。

だが自由はない。

扉には鍵があり、その鍵はアメリアが持っている。

さらに彼は、毒の存在を信じている。
毎日解毒剤を飲まないと死ぬ――そう思い込んでいる。

実際には存在しない毒だ。
だが、本人が信じている限り効果はある。

こうした心理支配は、探索者の世界では珍しくない。

都市ラフドニアには、さまざまな勢力が存在する。

  • 貴族
  • 商人ギルド
  • 探索者ギルド
  • 私兵組織
  • 裏社会

そのどこでも、人を完全に殺すより、利用する形で拘束する方が便利な場面がある。

例えば

  • 情報源
  • 案内役
  • 取引仲介
  • 人質

今回の航海士も、その一種だ。

彼は経験豊富な航海士であり、都市の地理にも詳しい。
探索者のネットワークも多少持っている。

つまり、殺すには惜しいが、自由にしておくには危険な人材である。

だから地下室という選択になった。

そして、この管理役を担当するのがビョルンだった。

彼の日課は単純だ。

一日三回、地下室へ行く。

食事を運ぶ。

扉を開ける。

部屋の様子を確認する。

そして再び鍵を閉める。

それだけだ。

単純な作業だが、重要な意味がある。

もし航海士が逃げ出せば、

  • 彼らの拠点が知られる
  • ノアークとの関係が露見する
  • 王国側の監視が強まる

といった問題が起きる可能性がある。

つまりこの地下室は、ただの牢屋ではない。

情報封鎖装置でもある。

迷宮の中では、魔物が敵だった。
だが都市では、情報と人間関係が敵になる。

ビョルンは、その違いをよく理解していた。


レイヴンの来訪――かつての仲間との距離

地下の管理と拠点防衛を続けていた三日目。

玄関の扉が叩かれた。

「レイヴン」

ビョルンが扉を開けると、そこに立っていたのはレイヴンだった。

「昨日来るつもりだったんだけど、忙しくてね。入っていい?」

「もちろん」

彼女は家に入り、軽く周囲を見回す。

「他の二人は?」

「戦利品を売りに行ってる」

「ふーん……」

その返事は、どこか含みがあった。

ビョルンが様子を尋ねると、レイヴンは小さく笑う。

「別に何でもない。ただ……」

少しだけ間を置き、彼女は言った。

「昔、ああいう仕事は私がやってたなって思って」

その言葉を聞いて、ビョルンは少しだけ申し訳なくなる。

かつて彼らは同じパーティだった。

迷宮に入り、戦い、利益を分け合う仲間。

だが今は違う。

それぞれ別の立場で動いている。

「悪いな。他に頼める人がいなくて」

ビョルンがそう言うと、レイヴンはすぐに首を振る。

「謝ることじゃない。そもそも、あなたが謝るような話でもない」

その言葉は、優しさでもあり、距離でもあった。

二ヶ月。

迷宮に潜っていた時間は、それほど長くない。
だが人間関係においては、十分に距離ができる時間でもある。

二人はリビングに座り、互いの近況を話す。

「そっちはどうだった?」

「うまくいった。そっちは?」

レイヴンは肩をすくめる。

「戦争は続いてる。終わる気配はない」

王国は今、戦争状態にある。

ラフドニアの周辺では軍の動きが活発化し、探索者も戦争に巻き込まれることが増えている。

つまり迷宮の外でも、世界は安定していない。

むしろ迷宮の中の方が、まだ単純な敵しかいない分、分かりやすいとも言える。


地下からの音――隠された存在

その時だった。

ドン、ドン、ドン!

地下から振動が響く。

レイヴンが顔を上げる。

「今の音は?」

ビョルンは一瞬だけ考え、答える。

「配管工事だ」

嘘だった。

地下では航海士が扉を叩いている。
おそらく何か文句を言っているのだろう。

だがそれを説明するわけにはいかない。

もしレイヴンに地下の存在を知られれば、

  • 監禁
  • 脅迫
  • 毒のブラフ

といった話が一気に露見する。

レイヴンは特に疑わず、話を続けた。

そして会話の最後に、今回の訪問の本題を切り出す。

「そういえば、頼まれてた件」

ビョルンが以前頼んでいた調査だ。

ノアークとの統合提案。

誰がそれを持ち込んだのか。

レイヴンは答える。

「ペプロク子爵夫人」

その名前を聞いた瞬間、ビョルンは驚く。

ペプロク。

その名前は聞き覚えがあった。

ラグナ・リタニエル・ペプロク。

過去で出会った人物の名前だ。

もちろん同名の可能性もある。
だが胸騒ぎが消えない。

ビョルンは確認する。

「子爵夫人の名前は?」

レイヴンは答える。

「ラグナ・ペプロク」

その瞬間、ビョルンの思考が止まる。

本当に、あのラグナなのか。

さらにレイヴンは続ける。

ペプロク家は小貴族だったが、最近爵位を回復した。
しかも急速に政治の中心へ近づいている。

その理由も判明していた。

「後ろ盾がいる」

「誰だ?」

「ラフドニア宰相、テセルリオン侯爵」

ビョルンの頭の中で、政治の構図が急速に組み上がっていく。

宰相の派閥。
ペプロク家の復活。
そしてノアークとの統合提案。

それらが一つの線でつながり始めていた。

しかしレイヴンは続けて言う。

「でも妙なんだ」

「妙?」

「宰相は統合案に強く反対したらしい」

それは矛盾している。

もし宰相が黒幕なら、反対する理由がない。

だがビョルンはすぐに仮説を立てる。

「演技かもしれない」

「演技?」

「強く怒れば、議題そのものが消える」

つまり、議論を封じる政治的演出。

その推理に、レイヴンは少し驚いた顔をした。

「政治に詳しいの?」

ビョルンは肩をすくめる。

「人間に興味があるだけだ」

だが彼自身も確信は持っていない。

情報はまだ足りない。

だから彼はレイヴンに頼む。

「ペプロク子爵夫人を調べてくれ」

レイヴンは頷いた。

「私も気になってた」

こうして会話は終わる。

だがこの情報は、後にもっと大きな事件へとつながっていく。

それを知らせるかのように、
一週間後――

王家の騎士団が、ビョルンの家の扉を破壊して突入してくることになるのだった。

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