【転生したらバーバリアンだった】第586話あらすじ&考察|古代世界の矛盾とカンバーミエル公爵の最期
- 古代世界の真実へ――カンバーミエル公爵との対話
- 魔女を信じる者たちが目指した「暁の地」
- 帝国と五柱の神――歴史は本当に正しいのか
- 古代にもモンスターはいた――だが今とは違う
- 最大の矛盾――古代世界には六種族がいなかった
- 狂気が戻る前に――公爵が選んだ終わり
- 最後に戻った記憶――守護者は何度も戦っていた?
- 「本物か偽物か」――カンバーミエル公爵の最期
- 迷わず一撃――かつての死闘との対比
- 3時間21分――王家遠征軍への帰還
- 王家遠征軍を使った再現実験
- なぜビョルンだけが公爵と話せたのか
- 地下1階の価値が「ボス攻略」から変わった
- 考察|六種族の歴史はどこで食い違ったのか
- 考察|「Original」と守護者の正体
- 情報と戦力を循環させるビョルンの攻略法
- 過去の強敵を見る目まで変わった
- まとめ|第586話で崩れ始めた「当たり前」
古代世界の真実へ――カンバーミエル公爵との対話
カンバーミエル公爵から感謝を告げられたビョルン・ヤンデルは、何とも言えない居心地の悪さを覚えていた。
これまで彼にとって、公爵は血赤の要塞で戦った強敵であり、迷宮に出現する守護者の一体だった。しかし話を聞いたことで、その見方は大きく変わっている。
公爵には人間だった頃の人生があった。
病に倒れた娘を救おうとして邪神カルイを信奉する者たちに利用され、自らも狂気に侵され、最後には三神教会の軍勢に討たれた。
それから数千年後、死んだはずの彼は迷宮の守護者として存在している。
しかも本人は、自分がすでに死んでいることも、以前ビョルンと戦ったことも覚えていなかった。
ビョルンは、そんな公爵に都合のいい嘘をつかなかった。
自分が同じ立場なら、残酷でも真実を知りたい。
その考えから事情を正直に伝え、公爵もまた自分の人生を語った。
本来なら敵と探索者で終わるはずだった関係が、いつの間にかそれだけでは説明できなくなっていた。
そして公爵は、自分についての話を終えると、ビョルンが本当に知りたかったことへ話題を移す。
それは、世界崩壊以前の古代世界だった。
現在ではまともな記録がほとんど残っていない時代について、当時を生きていた人物から直接聞ける。
ビョルンにとって、これ以上ない情報源である。
魔女を信じる者たちが目指した「暁の地」
最初にビョルンが尋ねたのは、古代世界で帝国と敵対していた魔女についてだった。
だが、公爵ほどの身分にあった人物でも詳しいことは知らなかった。
分かっているのは、魔女が女性だったこと程度。
ただし、魔女を信じる巡礼者たちについては知っていた。
彼らは死後、苦しみも痛みも差別も存在しない、誰もが平等で自由に暮らせる場所へ行けると信じていた。
「暁の地?」
その名称に、ビョルンは強く反応する。
なぜなら、迷宮8階も「暁の地」と呼ばれているからだ。
公爵自身も、死後に迷宮で目覚めたとき、ここが巡礼者たちの語っていた暁の地なのではないかと考えたという。
彼は死の直前、三神教会ではなく魔女へ祈っていた。
せめて娘だけでも救ってほしい。
そして次に目を覚ました場所が、現在の迷宮だった。
ただしビョルンは、迷宮8階にも同じ名前の場所があるとは伝えなかった。
同名だからといって、同じ場所とは限らない。
一致を見つけても、証拠がなければ答えにしない。
これは今回のビョルンの行動に一貫している姿勢でもある。
魔女の信徒が語る理想郷と、現在の迷宮に存在する階層。
偶然かもしれないが、「暁の地」という名称が過去と現在を結ぶ手掛かりになったことは間違いない。
帝国と五柱の神――歴史は本当に正しいのか
続いて話題は古代帝国へ移る。
当時の帝国は、魔女を滅ぼさなければ世界が滅びると主張していた。
しかしカンバーミエル公爵は、その言葉を信用していなかった。
公爵が知るさらに古い時代には、神は五柱存在したという。
ところが二つの宗教は帝国によって消され、その背景には政治的な理由があったと伝わっていた。多くの血も流れたらしい。
つまり帝国には、自分たちにとって不都合な信仰や勢力を排除した過去があった。
ただし、公爵自身も五柱の神について詳しく知っているわけではない。
そこでビョルンは話を進め、帝国の規模を尋ねる。
帝国は大陸のおよそ三分の一を直接支配し、さらに別の三分の一にも影響力を及ぼしていた巨大国家だった。
それほどの帝国が存在したにもかかわらず、公爵は現在の中心地であるラプドニアという名前を知らなかった。
数千年の間に名称が変わった可能性はある。
それだけなら決定的な矛盾ではない。
しかし、その後の話はビョルンが知る歴史とさらに大きく食い違っていく。
古代にもモンスターはいた――だが今とは違う
ビョルンは、公爵の時代にもモンスターがいたのかを確認する。
答えは「いた」。
ゴブリン、イエティ、オーガなど、現在の探索者にも馴染み深い存在が古代から生息していた。
だが、決定的な違いがある。
当時には聖水(Essence)も魔石も存在していなかった。
さらに、モンスターの多くは現在より高い知性を持っていたという。
ゴブリンやコボルトは集落を作り、ときには人間と交流することもあった。
オークに至っては単なる討伐対象ではなく、一つの勢力として扱われていた。
現在の迷宮では、モンスターを倒せば魔石を得られ、運が良ければ聖水も入手できる。
探索者の成長や都市の経済そのものが、その仕組みを前提としている。
しかし古代世界では、そんな構造自体が存在していない。
現在のモンスターは、古代に存在した生物をそのまま再現したものなのか。
それとも、迷宮の仕組みによって別の存在へ変化しているのか。
ここでも新しい疑問が生まれる。
最大の矛盾――古代世界には六種族がいなかった
さらにビョルンは、人間以外の種族について質問する。
エルフ。
ドワーフ。
竜人。
ところが、公爵の反応は予想外だった。
「エルフとドワーフ?」
公爵にとって、彼らは現実の種族ではなく物語や神話の中の存在だった。
そこでビョルンは、自分自身が何族に見えるか尋ねる。
「当然、人間だろう」
公爵には、巨大な体格を持つバーバリアンのビョルンすら普通の人間に見えていた。
ここで現在の歴史との重大な矛盾が発生する。
現在のラプドニアには、人間、獣人、エルフ、ドワーフ、竜人、バーバリアンの六種族が暮らしている。
しかもビョルンが知る歴史では、彼らは世界崩壊以前から独自の文化圏を形成していた。
バーバリアンは荒野でモンスターと戦い、ドワーフは地下都市を築き、エルフは守護樹に守られた土地で暮らしていた。
世界の終わりが迫った後、各種族はラプドニアへ集まり、それぞれの伝統を守る聖地を与えられた。
バーバリアンには現在も、共同体で子供を育てる習慣や独自の命名法が残っている。
そして、古代から伝わった秘術とされる《魂の刻印(Spirit Imprint)》まで存在する。
それなのに、公爵の時代にはバーバリアンそのものが存在していなかった。
どちらかの歴史認識が、そのままでは成立しない。
ビョルンの頭には、並行世界のような可能性も浮かぶ。
似た歴史や生物を持ちながら、細部が異なる世界。
そう考えれば説明できる部分は多い。
しかし、ビョルンはそこで結論を出さない。
並行世界という考えは便利すぎるからだ。
分からないことをすべて「別世界だから」で処理すれば、検証そのものができなくなる。
公爵にも六種族について説明してみるが、決定的な答えは得られなかった。
狂気が戻る前に――公爵が選んだ終わり
ビョルンには、まだ質問したいことが残っていた。
古代世界を直接知る人物から話を聞ける機会など、二度と訪れない可能性がある。
しかし、その時間には限界があった。
「狂気がまた始まった」
カンバーミエル公爵の目は赤く染まり、身体には血管が浮き上がっていた。
それでもまだ、理性は残っている。
だからこそ公爵は、完全に自分を失う前に終わらせてほしいと望む。
「これで終わりだ」
ビョルンの胸が重くなる。
情報を聞けなくなるからではない。
むしろ、完全に狂って襲いかかってくれた方が楽だった。
そうなれば、いつものように敵として倒せた。
しかし今目の前にいるのは、ただの吸血鬼ではない。
娘を救いたかった父親であり、自分の罪を理解し、最後まで正気であろうとしている一人の人間だった。
その人物が、自分の意思で終わりを望んでいる。
ビョルンは、その願いを拒まなかった。
最後に戻った記憶――守護者は何度も戦っていた?
ビョルンがハンマーを構えたところで、公爵は最後に一つだけ思い出したことを伝える。
以前ビョルンと迷宮で会ったと聞かされたことで、守護者として過ごした時間の記憶がわずかに戻ってきたらしい。
はっきりした映像ではない。
ただ、何度も正気を失い、誰かと戦っていたような感覚がある。
そして公爵は、自分なりの推測を口にする。
自分はずっとここに存在し、探索者との戦闘が起こるたびに呼び出されていたのではないか。
確定情報ではない。
それでも、この証言はビョルンにとって非常に重要だった。
王家遠征軍が調査している地下1階には、迷宮の亀裂に対応していると思われる守護者像が並んでいる。
通常、探索者は亀裂の先で守護者と戦う。
しかし地下1階では、その守護者たちへ別の方法で接触できる。
そしてカンバーミエル公爵の像の先には、かつて血赤の要塞で戦った存在がいた。
もし公爵の感覚が正しいなら、守護者は戦うたびに新しく作られる別個体ではなく、同じ存在が何らかの形で保持され、繰り返し戦場へ送られている可能性がある。
ただし、地下1階そのものが保管場所なのか、像がどんな機能を持つのかまでは分からない。
それでも、次に検証すべき対象が増えた。
公爵が最後の情報は役に立ったかと尋ねると、ビョルンは迷わず肯定する。
答えそのものではなくても、次に何を調べればいいのかが分かる情報には十分な価値がある。
「本物か偽物か」――カンバーミエル公爵の最期
すべてを話し終えた公爵は、自分自身へ問いかける。
「私は本物なのか、偽物なのか……」
ビョルンには答えられない。
目の前の存在が数千年前に死んだ本人なのか。
過去の人物を再現した存在なのか。
まったく別の仕組みなのか。
現時点では判断できない。
ただ、たとえ再現された存在だとしても、公爵は娘を覚え、自らの罪を悔い、ビョルンとの会話を通じて考え、自分で最期を選んでいる。
そのためビョルンにとって、単純な「本物か偽物か」という区別だけでは片付けられなくなっていた。
公爵は、自分の心臓が止まった後にどこへ行くのだろうと考える。
三神教会の死後の世界か。
巡礼者たちの暁の地か。
ビョルンの頭に浮かんだのは、もっと残酷な可能性だった。
今日の記憶を失い、再び守護者として目覚め、狂気に陥って探索者と戦う。
それを何度も繰り返すのではないか。
もちろん、証拠はない。
公爵自身も最後には答えを求めるのをやめる。
そして、もう一度告げた。
「これで終わりだ」
ビョルンはハンマーを振り下ろした。
迷わず一撃――かつての死闘との対比
ビョルンが選んだのは、苦痛を長引かせないための全力の一撃だった。
かつて血赤の要塞で戦ったとき、カンバーミエル公爵は極めて強固な敵だった。
《爆発する肉体(Exploding Flesh)》を何度も使い、ようやく心臓へ攻撃を届かせたほどである。
しかし今回は戦闘ではない。
公爵は避けず、反撃もしない。
必要なのは駆け引きではなく、確実に終わらせることだけだった。
ハンマーが心臓を捉える。
やがて公爵の身体は光へ変わり、虹色の聖水が現れる。
守護者を倒し、報酬が出現する。
探索者として何度も見てきた光景だ。
それでもビョルンは、すぐに次へ進まなかった。
光が完全に消えるまで、黙って見届ける。
名前も人生も知らなかった頃と同じようには、もう倒した相手を見ることができなかった。
3時間21分――王家遠征軍への帰還
ポータルを抜けると、外は騒然としていた。
ビョルンが戻ってくるまでにかかった時間は3時間21分。
通常の守護者戦を想定していた仲間たちからすれば、異常な長さだった。
地下1階はまだ十分に解明されていない。
中で何が起きたのか外から確認できない以上、帰還が遅れれば最悪の状況も考えなければならない。
アメリアたちが心配する一方、記録担当の魔法使いは時間を正確に残していた。
ここには王家遠征軍の強みがよく表れている。
彼らは単なる強者の集団ではない。
未知の環境を観察し、記録し、次の攻略へ情報を引き継ぐ遠征隊でもある。
レイヴンから事情を聞かれたビョルンは、公爵が知性を取り戻しており、長時間会話していたことを隠さず説明する。
なぜ秘密にしなかったのか。
答えは明確だった。
再現できる現象か確かめるためだ。
王家遠征軍を使った再現実験
ビョルンは、次に入る仲間たちにも守護者との会話を試してほしいと頼む。
自分だけに起きた現象を、自分一人で考え続けても条件は特定できない。
しかし王家遠征軍には、同じ守護者へ挑戦できるだけの戦力を持つ者が複数いる。
アメリア。
エルウィン。
ミーシャ。
彼らが同じ条件で入れば、少なくとも「誰でも同じ現象が起きるのか」は確認できる。
結果は、全員失敗だった。
「最初から襲ってきた」
守護者は会話に応じず、最初から敵として行動した。
これは失敗に見えて、重要な検証結果でもある。
ビョルンが経験した現象は、単にカンバーミエル公爵が知性を持っていたから起きたわけではない。
少なくとも「誰が入っても会話できる」という可能性は消えた。
王家遠征軍の人数と戦力が、ここではそのまま情報収集能力になっている。
ビョルンは戦闘力だけで攻略しているのではない。
仲間という人的資源を利用し、条件を比較し、仮説を絞っているのである。
なぜビョルンだけが公爵と話せたのか
では、ビョルンと他の探索者では何が違ったのか。
一つ考えられるのは、カンバーミエル公爵との過去の因縁だ。
ビョルンは以前、血赤の要塞で公爵と戦っている。
今回も、その事実を伝えたことがきっかけとなり、公爵には守護者として戦っていた頃の記憶がわずかに戻った。
過去に接触した相手との再会が、何らかの刺激になった可能性はある。
ただし、それだけが条件とは限らない。
守護者側の状態。
地下1階という場所。
ビョルン自身の何らかの要素。
複数条件が重なった可能性。
現時点では何も断定できない。
だからビョルンは、答えを想像するだけで終わらせない。
別の守護者を調べ、サンプルを増やそうとする。
地下1階の価値が「ボス攻略」から変わった
カンバーミエル公爵との一件によって、地下1階に並ぶ守護者像の意味も変化した。
以前なら重要なのは、どんな敵が出るのか、どれほど強いのか、どんな聖水を得られるのかという攻略情報だった。
しかし今は、新しい質問が加わっている。
その守護者にも過去の人生があるのか。
記憶が残っているのか。
古代世界について何を知っているのか。
地下1階が守護者を保存する場所なのか、それとも亀裂へつながる装置にすぎないのかは分からない。
それでも、複数の守護者を比較すれば、カンバーミエルだけの特殊現象だったのか判断する材料が増える。
ビョルンにとって探索とは、未知へ無計画に突っ込むことではない。
仮説を作り、実際に試し、結果を比較することなのである。
考察|六種族の歴史はどこで食い違ったのか
第586話で最大の世界設定上の謎は、古代世界と六種族の歴史の矛盾だ。
可能性は大きく三つ考えられる。
一つは、現在伝わっている歴史が完全には正確ではない可能性。
世界崩壊によって大量の記録が失われているなら、後世に伝承が変化していても不思議ではない。
さらに古代帝国には、政治的な理由で二つの宗教を消したとされる過去がある。
もしそれが事実なら、歴史そのものが意図的に書き換えられた可能性も無視できない。
二つ目は、公爵が世界のすべてを把握していなかった可能性。
高い身分の人物だったとはいえ、広大な大陸のすべてを知っていたとは限らない。
ただしエルフやドワーフを単に「知らない」のではなく、神話上の存在として認識していたことを考えると、それだけで説明するには弱い。
三つ目が、ビョルン自身も考えた別世界、あるいは並行世界の可能性である。
似た帝国やモンスターが存在しながら、種族や歴史が異なる世界なら矛盾は説明しやすい。
だが、現時点ではどれも仮説にすぎない。
重要なのは、ビョルンが一つの説へ飛びつかなかったことだ。
考察|「Original」と守護者の正体
今回まで続く「Original」という題も、カンバーミエル公爵の存在を知った後では意味深に見える。
何がオリジナルなのか。
古代に存在した本人なのか。
現在の守護者なのか。
迷宮に再現される世界の原型なのか。
答えはまだ分からない。
ただし、守護者を「ゲーム的に配置されたボス」とだけ見ることは難しくなった。
カンバーミエル公爵には、守護者になる以前の人生が存在していた。
さらに守護者として何度も戦った可能性まである。
だとすれば、地下1階の探索は単なる未踏領域攻略ではなく、現在の迷宮と過去の世界がどのようにつながっているのかを調べる作業でもある。
「暁の地」という名称の一致も同様だ。
魔女の信徒が信じた死後の理想郷と迷宮8階がなぜ同じ名前なのか。
公爵が死後に守護者として迷宮へ現れたことと関係があるのか。
現時点では因果関係を断定できないものの、今後無視できない材料である。
情報と戦力を循環させるビョルンの攻略法
ビョルンは公爵との一件を終えた後も、別の守護者像を調べようとする。
アメリアが心配するのも当然だ。
3時間21分も行方が分からなかった直後に、再び未知の対象へ挑戦しようとしている。
ただしビョルンも、無条件に危険へ飛び込んでいるわけではない。
次の対象は5等級。
未知の能力がある以上、絶対安全とは言えないものの、現在の自分の戦力なら検証する価値があると判断している。
ここにビョルンの構築思想が表れている。
彼は最大火力だけを追い求めない。
生存力。
対応できる状況の幅。
装備。
仲間との連携。
そして情報。
それらすべてを組み合わせて、攻略可能な範囲を広げる。
戦力があるから未知を調べられる。
そして、
未知を調べて情報を得るから、次はより有利に戦える。
情報と戦力が循環している。
今回、公爵をすぐ倒さず会話したことも同じだ。
戦わずに得た古代世界の情報は、その場の討伐報酬とは別種の「戦力」になっている。
過去の強敵を見る目まで変わった
カンバーミエル公爵の人生を知ったことで、ビョルンが守護者を見る視点にも変化が起きた。
これまでなら石像を見たとき、まず考えるのは敵の能力や聖水の性能だっただろう。
しかし今は違う。
次の守護者像を前にして、この存在にも何か物語があるのではないかと考える。
さらに思考は、深淵の門へまで及ぶ。
もし守護者たちが記憶を失いながら何度も戦闘を繰り返しているのなら、迷宮のさらに先へ進むことで、その循環にも変化が起きるのだろうか。
もちろん、深淵の門と守護者に直接的な関係がある証拠はない。
それでも、ビョルンの目的に新しい視点が加わったことは重要だ。
これまでは、
「どう攻略するか」
が中心だった。
今はそこに、
「この迷宮はなぜこうなっているのか」
という問いが加わっている。
さらに、
「ここに存在する者たちは何者なのか」
という疑問まで生まれた。
カンバーミエル公爵との対話は、ビョルンに答えを与えたのではなく、迷宮そのものを見る角度を変えたのである。
まとめ|第586話で崩れ始めた「当たり前」
第586話では、世界の真相が明かされたわけではない。
むしろ、これまで当然だと思っていた前提が次々と疑わしくなった。
- 古代にもモンスターは存在したが、聖水や魔石はなく、現在とは生態が大きく異なっていた。
- 公爵の認識では人間以外の六種族が存在せず、現在伝わる古代史との重大な矛盾が生じた。
- 守護者が同一存在として繰り返し戦闘へ呼び出されている可能性が浮上した。
- ビョルンだけが公爵と会話できた理由は分からず、王家遠征軍を使った再現実験でも同じ現象は起こらなかった。
- 公爵の人生を知ったことで、ビョルンは守護者を単なる攻略対象ではなく、過去を持つ存在として見るようになった。
次に注目したいのは、地下1階にいる他の守護者にも同様の秘密があるのかという点だ。
さらに、「暁の地」という名称の一致、古代世界と六種族の歴史が食い違う理由、そしてビョルンだけに特殊な現象が起きた条件も大きな謎として残る。
カンバーミエル公爵との3時間21分で増えたのは、答えよりも疑問だった。
しかしビョルンにとって、それは無駄ではない。
分からないなら検証する。
一人では足りないなら仲間を使う。
そして自分の戦力で対応できる範囲を見極めながら、さらに情報を集めていく。
戦えるから調べられる。調べるから、次はもっと有利に戦える。
その積み重ねによって、ビョルンの攻略対象は一体の守護者から、少しずつ迷宮という世界そのものへ広がり始めていた。
