アービトラージ(裁定取引)やリラティブバリュー(相対価値取引)を、個人投資家が楽天証券などの一般的な証券口座で活用するためのポイント

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1. アービトラージ(裁定取引)とは何か?

アービトラージとは、同じ(あるいは類似する)商品が異なる市場や異なる形態で取引されている際に、価格差を利用して利益を得る手法です。

  • たとえば、「同じ株式がA市場で1,000円、B市場で1,010円で取引されている」といったように、価格に差がある場合、安い市場で買って高い市場で売れば、理論上は差額分が利益になります。
  • 本来は売買が瞬時に行われるため、大口投資家や高速取引を行うプロなどが用いることが多いです。

しかし、個人投資家がアービトラージを行おうとしても、以下のような問題が生じやすいです。

  1. 取引スピード:価格差が数秒で解消されることも多く、個人では十分に早い売買が難しい。
  2. 取引コスト:株式の売買手数料や為替手数料などがかかるため、差額よりコストが大きいと損失になる。
  3. 最小取引単位:現物株は100株単位など、そもそもの必要資金が大きくなる場合がある。

理論上は「リスクほぼゼロで儲かる」ように語られることもありますが、実際には手数料やスプレッド、時間差リスクによるコストがあるため、個人での本格的アービトラージは難易度が高いです。


2. リラティブバリュー(相対価値取引)とは何か?

リラティブバリューは、ある銘柄や商品を単独で見るのではなく、別の銘柄や指標と「相対的に比べて割安・割高か」を判断して取引する方法です。

  • よくある例が「ペアトレード(Pairs Trading)」です。相関の高い2つの銘柄(例えば同業種の2社の株)を同時に売買して、割安と判断した銘柄を買い、割高と判断した銘柄を売ることで、相場全体の上下よりも二銘柄の価格差から利益を狙います。
  • また、株と債券、株価指数先物と個別株、あるいは似た動きをするETF同士など、多様な組み合わせが考えられます。

リラティブバリューは、相場全体が大きく変動しても、「二つの銘柄間の価格差」に着目するため、相場の上下にかかわらず収益機会を狙いやすいのが特徴です。ただし、理論的には割安・割高でも、なかなか価格差が縮まらなかったり、広がったりするリスクがあり、まったくノーリスクではありません。


3. 個人投資家が実践するためのヒント

3-1. まずは小さな額でペアトレードを試してみる

  • ペアトレードは比較的わかりやすいリラティブバリュー取引の入り口です。
  • 例えば、同じ業種(銀行株、商社株など)で業績や時価総額が近い企業2社を選んで、何らかの指標(PER、PBR、配当利回りなど)を比較し、「こっちは割安、こっちは割高」と判断して、同時に買いと売りを行います。
  • これにより、日経平均など相場全体が大きく下がっても、割安な銘柄の下落幅が小さく、割高な銘柄の下落幅が大きくなる(つまりショートポジションの含み益が大きくなる)ことで、相場全体の変動をある程度ヘッジできます。

ただし注意

  • 現物株だけでペアトレードをする場合、売り(ショート)が難しいことがあります。楽天証券では制度信用取引や**一般信用取引(短期・無期限)**で空売りが可能な銘柄もありますが、売れる銘柄が限定的だったり、売りの金利コストがかかります。
  • 取引に必要な証拠金や売買手数料なども含めて、コストが実質的な利益を超えないようにシミュレーションしてみることが大切です。

3-2. ETFやCFDを活用して相場全体の連動性を利用する

  • 同じインデックスに連動する複数のETF(例えば、日経平均連動型ETFとTOPIX連動型ETF)などを使うと、ペアトレードに似た手法をとりやすいです。
  • 株式に比べて必要資金が少なく、銘柄ごとのリスクが若干小さくなるメリットがあります。
  • CFD(差金決済取引)口座があれば、株価指数などを買い・売りで組み合わせるリラティブバリューにチャレンジできますが、個人で行う場合はレバレッジのかけすぎに注意が必要です。

3-3. 為替や商品を組み合わせる方法もある

  • 楽天証券ではFX取引も可能です。例えば、ドル/円とユーロ/円の相関を見ながら、片方を買って片方を売る、といった取引をすることも考えられます。
  • 商品先物(原油ETFや金ETF)などを使った商品間のスプレッド取引も理屈上は可能ですが、値動きの癖や流動性をよく理解する必要があります。

3-4. ツール・データ分析の活用

  • ペアトレードなどのリラティブバリュー取引では、相関係数価格差チャート移動平均乖離などを分析に使うことが多いです。
  • 楽天証券のマーケットスピードや、外部の証券分析ツール(TradingViewなど)を使って、二つの銘柄を比較するチャートを作ったり、スプレッド(価格差)の変動を追ったりできます。
  • 初めは無料の情報やチャートツールで十分なので、まずは小額・シミュレーションで試してみましょう。

4. 注意点とリスク管理

  1. コストに注意
    • 売買手数料、スプレッド、信用取引の金利・貸株料など、目に見えにくいコストも含めてシミュレーションしましょう。
  2. ボラティリティと流動性
    • 同業種とはいえ、思った以上に価格差が開いたまま戻らないこともあります。特に流動性の低い銘柄は、取引が成立しにくかったり急に動いたりするリスクが高いです。
  3. ショート(空売り)特有のリスク
    • 空売りは株価が上がり続けると損失が拡大し、理論上無限大になります。損切りラインをしっかり設定し、リスクコントロールしましょう。
  4. レバレッジをかけすぎない
    • 信用取引やFX、CFDはレバレッジが効く分、損失が大きくなる可能性もあります。慣れるまでは小額、低レバレッジから。
  5. タイミングとスピード
    • アービトラージに近い取引(価格差を素早く抜く)ほど、個人では高速取引システムを持っていないため不利になる傾向があります。
    • 数秒・数分レベルの超短期アービトラージよりは、数日~数週間程度で価格差が是正されることを狙うリラティブバリュー取引の方が現実的です。

5. まとめ

  • アービトラージは理論上リスクの少ない取引ですが、実際には高速取引や手数料などの障壁があり、個人投資家には難易度が高いです。
  • **リラティブバリュー取引(ペアトレードなど)**は、相場全体の上下よりも「二銘柄(または二商品の価格差)」に注目する戦略で、比較的実践しやすいです。
  • 楽天証券でも、信用取引やETF、FXなどを組み合わせれば、個人でも一定のリラティブバリュー戦略を行うことができます。
  • ただし、取引コスト・信用取引のリスク・相場の急変動には十分留意し、慣れないうちは小額で試してみることが大切です。

最初から完璧に利益を積み上げるのは難しいので、まずは「こういうアイデアで価格差を狙う」という練習をして、**少額またはバーチャル取引(デモトレード)**で試行錯誤するのがおすすめです。リスク管理を徹底しながら、徐々に理解を深めていくとよいでしょう。

以下では、「具体的にどのような銘柄やETFでペアトレードなどのリラティブバリュー取引を試してみるとイメージをつかみやすいか」を、初心者向けに例示していきます。実際の株価チャートや価格差(スプレッド)チャートをここに直接載せることはできませんが、過去の価格差やその動きの見方をできるだけわかりやすく説明してみます。


1. 銘柄選定の基本ポイント

リラティブバリュー取引(ペアトレードなど)を個人で行う場合は、下記のような基準でペアを選ぶと取り組みやすいです。

  1. 同業種や相関が高い銘柄同士
    • 銀行同士(メガバンク同士)、総合商社同士、自動車メーカー同士など。
    • 似た事業領域・時価総額が近い銘柄ほど、価格の動きが似通うため、価格差が異常に広がったり縮まったりしたときがチャンスになりやすい。
  2. 流動性が高い銘柄やETF
    • 出来高が少ないマイナーな銘柄だと、思うように注文が成立しないことがあります。
    • 売り(空売り)をする場合は、信用取引で空売りが可能な銘柄であることも大切です。
  3. 手軽に始めるならETF同士もアリ
    • 日経平均連動ETFとTOPIX連動ETF、あるいは国内株ETF同士・海外株ETF同士など。
    • ETFなら1口単位で売買できる場合が多く、個別株の「100株単位よりは少額で」取引しやすいケースが多いです。

2. 具体的な例:同業種の個別株ペア

2-1. メガバンク同士の例

  • 三菱UFJ(証券コード:8306)三井住友FG(証券コード:8316)
    どちらも代表的なメガバンクで、同じ銀行セクターの中でも時価総額が大きく流動性が高い銘柄です。

なぜメガバンク銘柄がよいのか?

  1. 値動きが高い相関を示しやすい
    銀行業界全体が好調・不調の時には、メガバンク株は似た動きをすることが多い。
  2. 流動性が非常に高く、売買が成立しやすい(板が厚い)ので、予期せぬスリッページが小さい。
  3. 信用取引で空売りしやすい(貸借銘柄になっているケースが多い)。

価格差・スプレッドの見方(イメージ)

  • たとえば、2022年~2023年あたりを例にすると、以下のように動いてきたイメージがあります(数字は例示)
    • 8306(UFJ)株価: 500円~1,000円のレンジで推移
    • 8316(SMFG)株価: 3,000円~6,000円のレンジで推移
  • このまま「価格差(SMFG - UFJ)」をとっても桁が違うので見にくい場合は、比率(SMFG / UFJ) でみることが多いです。
    • たとえば、比率が「SMFG / UFJ」で5.8~6.2あたりを行ったり来たりしているとします。
    • 過去数年間の平均が 6.0 くらいで推移していたとすると、「比率が6.3を超えたらSMFGが相対的に“割高”になっているかもしれない」「比率が5.7を下回ったらSMFGが相対的に“割安”かもしれない」という目安で、SMFGを売ってUFJを買う、または逆を行うというイメージです。

リスク軽減のポイント

  • このように「銀行セクター全体が急落した」「急騰した」というときでも、2銘柄の値動き差を狙うので、片方で損してももう片方では利益が出やすい構造になります。
  • ただし、空売りのリスクや信用取引の金利などのコストを考慮する必要があります。

2-2. 商社同士・自動車メーカー同士など

  • 商社:三菱商事(8058)と三井物産(8031)
  • 自動車:トヨタ(7203)とホンダ(7267)
  • 鉄鋼:日本製鉄(5401)とJFE(5411)

これらも同業種ペアとしてよく使われる例です。

  • 相関が比較的高く、出来高も大きい銘柄が揃っています。
  • ペアトレードの考え方は銀行株と同じで、「価格比率が自分の分析した平均値や範囲から乖離したとき」に仕掛けて、元の水準に戻ったら決済するという流れです。

3. 具体的な例:ETF同士のペア

個別株が難しければ、まずはETFで試してみるのも手です。

3-1. TOPIX連動型ETF vs 日経平均連動型ETF

  • TOPIX連動ETF(例:1306, 1308など)
  • 日経平均連動ETF(例:1321, 1330など)

なぜこのペアか?

  • TOPIXは東証プライム市場全銘柄を対象とする指数
  • 日経平均は東証プライムの代表的な225銘柄で構成される指数
  • 両者は日本株全体の動向を示しつつも、採用銘柄が微妙に異なるので、価格が少しずつ乖離したり、戻ったりすることがあります。

例:1306 (TOPIX) と 1321 (日経225)

  • 実際に両者の株価チャートや比率チャートを見ると(2022年~2023年など)、日経平均側が好調なときに比率が上昇し、逆にTOPIX優位だと比率が下落する、という動きが見られます。
  • 数値例(イメージ):
    • 1306が1,900円 → 2,100円あたりのレンジ
    • 1321が28,000円 → 33,000円あたりのレンジ
  • 比率: 1321 / 1306 が「15倍~16倍」あたりを中心に動くとします。
    • 過去の平均が15.5倍なら、16倍を超えると「日経平均ETFが相対的に強く買われ過ぎ」かもしれない、と考え、(1321を売り)+(1306を買い) のポジションを検討する、という形です。

リスク軽減のポイント

  • 個別銘柄の固有リスク(倒産や急な業績悪化)をかなり抑えられる。
  • ETFなので価格が極端に暴騰暴落するリスクは個別株より小さい。
  • ただし、大きく相場全体が暴落したときには両方とも下がるため、「差」はそこまで動かないかもしれません。
  • 手数料や信託報酬、配当金の扱いなども事前に確認しておきましょう。

4. 過去の株価やチャートの活用方法

ここでは具体的にチャートを貼ることはできませんが、実際に楽天証券の「マーケットスピード」やTradingViewなどの無料チャートツールを使うと、以下のように比較できます。

  1. 2銘柄(または2つのETF)のチャートを同じ画面に表示
    • 「比較チャート」機能を使い、両銘柄の株価推移を重ねて見る。
    • 傾向が似ているか、どこで乖離が大きいか、直感的に把握可能。
  2. スプレッド(価格差)や比率のチャートを自作
    • 一般的に標準搭載のチャート機能では「差」や「比率」をそのままプロットしにくい場合があります。
    • TradingViewなどの外部ツールで「新規インジケーターを追加 → ‘銘柄A / 銘柄B’」という数式を入れて、比率チャートを表示させる方法もあります。
  3. 移動平均線をかけてみる
    • スプレッドや比率に対しても移動平均線を描き、その±何%乖離に注目する、といった方法をとると、仕掛けやすいポイントが視覚的にわかります。

5. 「こうするとリスクが下がる」具体策

リラティブバリュー取引を個人で行う場合、以下のような工夫でリスクを下げられます。

  1. 少額・低レバレッジで始める
    • 信用取引でフルレバレッジをかけると、思わぬ乖離拡大で大きな損失を被るリスクが高まります。
    • まずは「片方の買いと片方の空売りを同額に近い金額で行う」など、資金管理を徹底する。
  2. 流動性・貸借取引の可否をよく確認
    • 空売りしたい方の銘柄に貸株が十分にあるか、**逆日歩(品貸料)**が高くなりそうではないかなど、事前にチェックしておくと、コストで損しにくい。
  3. エントリーポイントと損切りポイントを明確に
    • 「比率が過去半年の平均から+2σを超えたらエントリーし、平均に戻ったら利益確定」といったように、明確なルールを決めておく。
    • 逆に、相場環境が変わってさらに乖離が大きくなった場合に備えて、損切りラインも決めておく。
  4. 個別イベントリスクを避ける
    • 例えば、決算発表や業績悪化のニュースなど、銘柄固有のリスクが大きく価格差に影響を与える場合があります。
    • ETFならば個別業績の影響は小さくなりやすいので、初心者はETF同士のペアのほうがリスク管理しやすいことがあります。

6. まとめ

  • **メガバンク同士(UFJ vs SMFGなど)**や、同業種同士(商社、自動車、鉄鋼など)は、相関が高く流動性もあるため、ペアトレードの練習に向いています。
  • **ETF同士(TOPIX連動ETF vs 日経平均連動ETFなど)**も、個別株特有の業績リスクを抑えられるので初心者におすすめ。
  • 「過去の比率やスプレッドの範囲(ボラティリティ)」「移動平均や標準偏差」などを参考に、乖離の大きいところを狙うのがセオリー。
  • ただし、乖離がさらに拡大するリスクや、信用取引・空売りのコストなども必ず考慮し、小額・低レバレッジでテストするところから始めるのが無難です。

初心者の方は、楽天証券のツールやTradingViewなどで、まずは「チャートの比較」「価格比率の動き」の観察をしてみてください。過去数ヶ月~1年程度のデータを振り返って「こんなタイミングで仕掛ければ勝率が高そう」などとシミュレーションすると、実際の取引がイメージしやすくなるはずです。


免責事項
ここで紹介した銘柄やETFはあくまで「ペアトレードを検討する際の例示」です。実際に投資を行う場合は、市場環境や銘柄の最新状況、証券会社の信用取引ルールなどを十分に調査し、ご自身の判断と責任で行ってください。

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