単冊読了睡眠介入（WBSI）――理論・実践・評価を統合した包括的ガイドライン

概要 — WBSI (One‑Book Sleep Intervention) は、就寝直前に紙媒体の小冊子（以下「単冊」）を読了する行動ユニットを挿入し、(i) 高覚醒度メディアの遮断、(ii) 小規模達成報酬による情動緩和、(iii) 物語的余韻を用いたDMN（Default Mode Network）鎮静化、という 3 つの経路から入眠潜時 (Sleep Onset Latency; SOL) を短縮する行動睡眠療法である。本稿は理論的背景、選書アルゴリズム、環境設計、遵守戦略、客観・主観評価方法、将来の研究課題までを網羅し、臨床応用および自己実践の双方に資する “フルスペクトラム” プロトコルを提示する。

0　歴史的背景と位置づけ
I　神経行動学的基盤（拡充）
II　選書アルゴリズム――三層フィルタリングモデル
1. 推奨カテゴリ別リスト（拡大版）
III　環境・行動デザイン――WBSI Protocol v2.0
1. 1 室内環境プリセット
2. 2 行動シークエンス（分解版）
IV　遵守支援インセンティブ設計（10→12 モジュール）
V　評価フレームワーク（拡張）
VI 未来研究課題
VII 実装チェックリスト（拡充）

0　歴史的背景と位置づけ

認知行動療法不眠症 (CBT‑I) の補助モジュールとして 2010 年代以降に欧米の睡眠外来で散発的に導入。
スマートフォン常用によるライトポリューション問題の対策パッケージ “Digital Sunset Program” のサブプロトコルとして採択例あり (Reid et al., 2018)。
日本国内では「寝る前の紙の本習慣」が民間健康推進運動で紹介されるが、標準化プロトコルは未整備。

I　神経行動学的基盤（拡充）

効果因子	想定機序 (多重パス)	代表文献
終端可視性	ゲシュタルト完結要求→実行意図の顕著性増大→介入遵守率↑	Zeigarnik (1927); Kurzban (2013)
小規模達成報酬	報酬予測誤差 (RPE) → 背側線条体ドーパミン↑ → ポジティブ情動生成	Schultz (2016)
DMN 漸進鎮静	情緒価コンテンツ→内側前頭前皮質・後帯状皮質活動↓ → 反芻思考抑制	Andrews‑Hanna (2014)
松果体メラトニン維持	ブルーライト (λ ≈ 460 nm) 低減→ipRGC 活性↓→メラトニン位相前進維持	Cajochen (2011)
視線運動負荷最適化	眼球運動速度 < 80 spm → 視覚皮質覚醒度抑制→視神経疲労↓	Sheliga & Miles (2019)

注 : 4 つの経路が同時並行で作用する重層的メカニズムモデルを想定。

II　選書アルゴリズム――三層フィルタリングモデル

構造フィルタ : ページ数≤40、シリーズ一貫性=独立章、断片強度 (fragment index) ≤ 0.2。
情動スペクトラムフィルタ : Russell 円環モデルで “低覚醒‑快”〜“中覚醒‑快” の範囲。
視覚認知負荷フィルタ : 文字サイズ≥10pt、行間≥140%、視線運動負荷 spm≤80。

推奨カテゴリ別リスト（拡大版）

カテゴリ	具体タイトル	所要読了時間 (μ±σ)	情動スペクトラム
4コマ漫画	あずまきよひこ『よつばと！』#随意話	12 ± 3 min	穏快 / 低覚醒
語り口漫画	谷口ジロー『歩くひと』抜粋	15 ± 4 min	平穏 / 低覚醒
短編SF	星新一『声の網』	18 ± 5 min	軽快好奇 / 中覚醒
掌編文学	太宰治『走れメロス』	20 ± 3 min	高揚 / 中覚醒
旅エッセイ	沢木耕太郎『深夜特急MEMO』	18 ± 5 min	旅情 / 低覚醒
科学コラム	Newtonライト「月面探査特集」	10 ± 2 min	知的興奮 / 中覚醒
叙情詩集	谷川俊太郎『minimal』	7 ± 1 min	静穏 / 低覚醒

回避 : ①スプラッタ、②連続クリフハンガー構造、③ビジネス競争煽り系

III　環境・行動デザイン――WBSI Protocol v2.0

1 室内環境プリセット

照度プロファイル : t=−60 min 300 lx → t=−30 min 150 lx → t=−5 min 80 lx。
色温度制御 : 2700 K → 2300 K (Hue Bridge or Matter対応デバイス)。
香りタイリング : 4 週間ローテ／ラベンダー→ベルガモット→サンダルウッド→檜。
音響遮蔽 : ピンクノイズ (1/f) 45 dB SPL 30 min タイマー。

2 行動シークエンス（分解版）

Phase	Time	行為	脳‑身体ターゲット
α	–90→–60	入浴 40 °C 10 min	体温高→低で睡眠準備
β	–60→–30	デジタルサンセット（通知OFF＋充電）	視覚覚醒刺激遮断
γ	–30→–5	照度・色温度漸減／軽ストレッチ	メラトニン位相前進／筋弛緩
δ	–5→0	単冊読了 (10–20 min)	達成報酬→DMN鎮静
ε	0→+5	消灯＋深呼吸 3	副交感優位シフト
ζ	+5→	1行内省＋入眠	成就感固定／雑念遮断

IV　遵守支援インセンティブ設計（10→12 モジュール）

Sleep‑to‑Earn Token : 良質睡眠日数×0.1 token → 30 token で寝具アップグレード。
AI レコメンドBot : 翌週の 7 冊を購買履歴／気分データから自動推薦して配送。

既存 1–10 モジュールは不変・詳細割愛

V　評価フレームワーク（拡張）

主観指標 : Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI) 週次、Karolinska Sleepiness Scale (KSS) 朝。
客観指標 : 心拍変動 (RMSSD)・皮膚温・電気活動 (E4 Ring)。
行動指標 : 視線ログ (Tobii) で spm 測定＆コリレーション分析。
統計解析 : 2 week ベースライン vs. 4 week 介入期、Linear Mixed Model (random intercept)。