バーバリアンとして生き残る – 第86話 「バロン・マルトアン (2)」要約と考察
第86話は、前話から続く「ドゥワルキー逮捕事件」の顛末と、そこから露わになる衝撃の事実を中心に描かれています。モセラン騎士団による強引な拘束から始まり、ドゥワルキーの隠された身分、そして貴族社会の冷酷な権力闘争が明らかになります。同時に、バルバロイであるビョルンの視点から見える“冒険者パーティーの不安定さ”と、“知識こそ力である”というテーマも浮かび上がります。
突然の逮捕 – 酒場での一幕
物語は酒場での一場面から始まります。モセラン騎士たちは迷いなくドゥワルキーを捕らえ、「貴族への侮辱」という罪で拘束します。彼は泥酔しており、状況を理解する間もなく髪を掴まれて連行されてしまいます。
仲間のヒクロドは必死に抗議しようとしますが、騎士団は高圧的な態度を崩さず、下手をすれば彼まで捕まってしまう状況でした。ここで冷静に立ち回るのがビョルンです。余計な口出しを避け、あえて大人しく従うことで被害を最小限に抑えます。
この判断には、彼の“元ゲーマーとしての経験値”が反映されています。無謀に抗うのではなく、まずは状況把握。これはサバイバルにおける基本原則でもあります。
情報の遮断とシビル・サポート
ドゥワルキーの身に何が起きたのかを確かめるため、ビョルンはモセラン本部へ向かいます。しかし、騎士団は「捜査中」の一点張りで情報を一切開示しません。ゲーム内でも描かれていたように、彼らは冒険者を軽んじ、協力的ではない存在として描かれています。
打つ手がない中、ビョルンは市民職員シャビンに頼ります。彼女なら立場上、内部情報にアクセスしやすいと踏んだからです。彼女は協力を約束しますが、それでも限界があることを伝えます。それでも“人脈を活かして動く”というビョルンの姿勢は、ただの力押しではなく、したたかな生存戦略を物語っています。
長い待ち時間の末、ようやくドゥワルキーが姿を現します。拷問を受けた様子もなく、肉体的には無事。しかし、その表情は沈みきっており、ヒクロドの「誤解だったのだろう」という楽観はすぐに打ち砕かれます。
ドゥワルキーの告白 – 隠された血筋
皆で場所を変えて事情を聞くと、ドゥワルキーは衝撃の告白を口にします。
「実は、私はマルトアン家の落とし子だ」
彼の父は先代バロン・マルトアン。母は屋敷の使用人でした。正妻の子ではなかったため、生まれてすぐに名ばかりの養子に出され、家の恥として扱われてきたのです。しかし、体裁を保つためか一定の援助は続き、その資金で魔法を学ぶことができました。
仲間たちは一様に驚きます。無口で朴訥な印象の魔法使いが、まさか貴族の血を引いていたとは想像すらしなかったのです。
貴族社会の現実 – 流血の継承争い
話はさらに続きます。1年前、先代バロンが亡くなり、次男が跡を継ぎました。しかしその過程で長男をはじめ複数の親族が命を落としています。新たな当主が台頭する際、反対勢力を排除するのは珍しいことではありません。つまり、新バロンは血の粛清によって権力を確立したのです。
ドゥワルキーは自分が冒険者として名を上げつつあること、魔法を磨き続けていることが兄の目障りになったと考えています。彼の逮捕は“警告”であり、「これ以上表舞台に出るな」という無言の命令でした。
その証拠に、処罰は投獄や拷問ではなく“迷宮入場許可の剥奪”という形で下されました。これは冒険者にとって死刑宣告に等しく、彼のキャリアを完全に断ち切るものでした。
仲間を失うパーティー – 繰り返される不安定さ
ドゥワルキーの言葉に、仲間たちはショックを隠せません。ヒクロドもミーシャも「なんとかならないのか」とビョルンに縋りますが、彼は沈黙で答えます。
残り9日で次の迷宮開放。だが魔法使いを失ったパーティーでは攻略は難しい。エルウェンやアイナールが抜けた時と同じように、またしても穴が空いてしまったのです。
ビョルンの内心には苛立ちが募ります。「なぜいつも順調にいかないのか」。しかし、これは“この世界は常に予期せぬ困難を突きつけてくる”という物語全体のテーマとも重なっています。
新たな可能性 – ビョルンと図書館のラグナ
その夜、ビョルンは休む代わりに図書館へ向かいます。狙いは司書ラグナ。彼女が有能な魔術師であることを見抜き、代わりに迷宮へ同行しないかと直球で提案します。
返答は即座に「拒否」。しかし、そのやり取りの中で、彼女の実力が十分であることは確認できました。
さらに会話は思わぬ方向へ。ラグナは、シャビンが「ビョルンに恩返しを」と求めたことを明かし、特別な魔法を施してくれます。それは通常の〈書物探知〉では反応しない“高位閲覧制限書”を探し出す力。つまり、貴族や一部の者しか触れられない本を読むことが可能になったのです。
禁書の知識 – 世界の深層へ
ラグナの許可のもと、閉館後の図書館に残されたビョルンは、数々の秘匿書を手に取ります。
- 『ラフドニア機関組織図』 …都市の権力機関や秘密部門の構造。
- 『悪霊の世界』 …精神世界への侵入とその危険性。
- 『次元の裂け目 Ⅱ』 …そして、最も衝撃を与えた一冊。
『次元の裂け目』は、まさに“攻略本”と呼ぶべき内容でした。隠し要素や仕掛けが体系的に記され、ベテランゲーマーであるビョルンでさえ補足の余地がないほど完璧な情報が詰まっています。
そして最後のページに記された著者名が、物語の次なる謎を呼び起こします。
「オーリル・ガビス」。
それは、ビョルンが元いた世界のゲーム『Dungeon and Stone』の開発者の名前でした。
第86話のテーマと意味
- 貴族社会の冷酷さ
- ドゥワルキーの血筋と追放劇は、権力闘争の残酷さを端的に描いています。表向きには“罪”で処理されながら、実際は権力者の都合で人生を奪われる現実。
- パーティーの脆さ
- 繰り返し仲間を失うことで、“冒険者生活は安定せず、常に変化にさらされる”という世界の厳しさが強調されています。
- 知識の力
- ビョルンが得た禁書のアクセス権は、ただの戦闘力以上の価値を持ちます。力だけではなく情報を制する者が生き残る、という物語的メッセージが込められています。
- メタ的伏線
- ゲーム開発者の名が世界の書物に登場するという展開は、ビョルンの転生の秘密や、この世界の成り立ちに直結する大きな伏線となります。
まとめ
第86話は、ドゥワルキーの離脱と禁書の発見という二つの大きな転換点を描いています。一方で仲間を失う喪失感があり、他方で新たな知識という力を得る展開。物語は一見マイナスに傾きつつも、同時に未来の突破口を提示しています。
最も読者の印象に残るのはやはり最後の一文。「著者:オーリル・ガビス」。
ビョルンのいた“ゲーム”の外側の存在が、この世界の内部に痕跡を残している。このメタ的な衝撃が、次章以降の大きな謎解きの起点となるでしょう。