“運”と“犠牲”と“合理主義者”アメリア──渦中で交錯する3つの命の線
第276話「Whirlpool(2)」は、
これまで積み上げてきたイベントが一気に交差する、かなり濃い一話です。
- ミーシャ視点:赤髪の女性を必死に守り抜く攻防
- ビョルン視点:アヴマン瀕死、ドレイク&ベルバーソン戦の決着
- そしてラストでついに合流するミーシャ&アメリア
- 宝を巡って揺さぶりをかけるベルバーソン
- それを一瞬でひっくり返すアメリアの“合理的すぎる”判断
という流れで、
**命の線が「つながる/切れる/利用される」**瞬間が立て続けに描かれます。
1. ミーシャ視点:名も知らぬ赤髪女性を守る戦い
物語はまず、
「生と死の境界線」というモノローグから静かに始まります。
- 探索者の世界では、生死は“ゆっくり”ではなく“瞬時”に決まることが多い
- ポーションと神聖魔法があるからこそ、「致命傷」か「全滅」にならない限りは助かる
- しかし、それでも救えない時がある
そこから、「ミスフィッツ」の魔術師リオル・ウォブ・ドワーキーの死が引き合いに出されます。
- 彼は“確定死”で、仲間に遺言を残しながら逝った
- ミーシャたちは、その喪失感を深く味わった
対して今回ミーシャが守っているのは──
「大事な仲間ではなく、素性もよく知らない赤髪の女性」
しかし、彼女の状態はドワーキーと違い、“まだ死が確定していない”。
- 怪我は深刻
- ただしまだ助かる見込みがある
だからこそ、ミーシャの行動には迷いが生まれます。
● 「ここで見捨てればビョルンのところへ戻れる」vs「それでもこの人を置いていけない」
- ミーシャはすでに限界ギリギリ
- モンスターの群れを相手に、一人でひたすら剣を振り回して足止めしている
- このままでは自分も死ぬかもしれない
- ここで見捨てて撤退すれば、ビョルンと再会できる可能性は高まる
それでも彼女は踏みとどまります。
「起きて! お願いだから目を覚まして!」
自分一人では、
・女性を抱えて戦い抜くことは不可能。
・だからこそ、“彼女自身が歩ける程度まで回復してくれないと詰み”という状況。
ギリギリの中で叫び続けたミーシャの声は、
ついに赤髪の女性を現実へ引き戻します。
「……あなたが、守ってくれていたのですね」
女性は自分が守られていたことを理解しつつ、
自分の状態を冷静に評価します。
- 「身体は動かない」
- しかし「モンスターに対処する手段ならある」
そう言って、ミーシャにポーチの中からアイテムを取らせます。
● 神聖スクロール「悪しき終焉の宣言」
それは魔法スクロール──
しかもよりによって神聖系スキル「悪しき終焉の宣言」の巻物。
- 通常は神官スキルとして使われるもの
- スクロール化されたものは超希少
- ミーシャから見ても「なんでこんなものを持ってるの?」レベルの代物
ミーシャは
「なんで今までそれを使わなかったんだ!」
とツッコミたい気持ちを抑えつつ、即座にスクロールを発動。
透明な神聖バリアが展開し、
押し寄せていたモンスターたちは結界の外へ押し戻されます。
- 一時的とはいえ、安全地帯の確保に成功
- ミーシャはようやく座り込んで息を整えることができる
ここで、ミーシャはようやく気になっていた質問を投げかけます。
「ねえ、あなたとビョルンの関係って、何?」
しかし、赤髪女性は何かを言いかけて沈黙し、そのまま意識を手放してしまう。
(負担をかけまいと揺すりつつも途中でやめるミーシャの優しさが地味に描かれている)
- 赤髪の女
- 神聖スクロール
- ビョルンとの関係性
という3つの謎を残したまま、
ミーシャは再び「仲間たちは無事だろうか」と海風に吹かれながら不安を募らせます。
この時点では、赤髪女性の正体はまだ明かされませんが、
ラストでの“合流シーン”で繋がってきます。
2. ビョルン側:アヴマンの“運の悪さ”とドラゴンの生贄
視点がビョルンへ戻ると、
まさに戦場の真っ只中。
● アヴマンの不運な重傷
アヴマンに起きた悲劇は、
「誰のミスとも言えない“不運な事故”」として描かれます。
- ドレイクの爪攻撃をパーツランが剣で受け止める
- その衝撃で剣が折れる
- 折れた刃が飛び、後方にいたアヴマンの胸を貫通
これは、
・パーツランが下手だったわけでも
・アヴマンの立ち位置が悪かったわけでもなく、
ただただ**“タイミングと角度が最悪にかみ合った結果”**です。
「10階から落ちても生きる者もいれば
ちょっとした転び方で死ぬ者もいる」
ゲーム時代に、
「理不尽さも含めて楽しんでいた」ダンストの仕様が、
今はただの“残酷な現実”になっている、というビョルンの心情が刺さります。
● ドラゴンの生贄(Dragon’s Sacrifice)というスキル
さらに追い打ちをかけるのが、
ドレイクのスキル**[ドラゴンの生贄]**。
- 対象にこの状態が付与されている間
→ すべての回復・再生効果が無効化 - エルシナが回復スキルを使っても「拒否」判定が出る
つまり、
「アヴマンのHPはガンガン減っていくのに、誰もそれを止められない」
という最悪の状況です。
- ハンスJはすでに死亡
- パーツランは武器破損
- 神官の神力は枯渇済み
- エルウェンもMP切れ
- ネバーチェの参戦は焼け石に水レベル
本来なら「粘って勝ち筋を探す」のがビョルンのプレイスタイルですが、
今回ばかりは時間をかければかけるほどアヴマンの死が確定していく戦い。
「安全策でじわじわ削るプランはもう取れない」
「短期決戦でドレイクを落とし、生贄状態を解除するしかない」
ここで彼は、
**“犠牲を前提にした戦い方”**へ舵を切ります。
3. 自分の身体をコストにする戦法──ドレイク&カーミラへの特攻
ベルバーソンとの一騎打ちはこういうパターンでした。
- これまでは
→ 剣を盾で受ける
→ その1ターンを消費して反撃、という“堅実型”
しかし今回は、
自分の行動パターンをあえて捨て、相手の選択を迫る方向にシフトします。
● 「あえて剣を無視して殴る」フェーズ
ベルバーソンが突きを繰り出してきた瞬間、
ビョルンは**「受けない」**ことを選びます。
- これまでの前提:「突き=盾で受けてから反撃」
- 今回の行動:「突きに対してノーガードでメイスを振る」
これにより、ベルバーソン側からすれば
「刺し続けるか、回避するか」
の二択を突きつけられることになります。
その結果──
ベルバーソンは「避ける」を選択。
- 既に[鉄皮]による耐久を見ている
- 正面から殴り合うのは分が悪いと判断
- 距離を取る方を選択する
これはこれで合理的な判断ですが、
ビョルンの真の狙いは**「ベルバーソンではなくドレイク」**。
● [Leap]によるドレイク特攻
ベルバーソンが下がった瞬間、
ビョルンは進行方向を変え、ドレイクに向かって[Leap]で跳躍。
- 溜めていたわずかなMPをすべて使っての[Leap]
- 普段の[巨大化]コンボと違い、反動ダメージはないが、
その分純粋な肉体ダメージとリスクだけが残る
着地と同時に、ドレイクの鼻先にメイスを叩き込み、
視線と体勢を乱します。
ここでの本命はあくまで背に乗っている召喚士カーミラ。
- ビョルンはドレイクの動きに構わず、
サドル上のカーミラに接近 - そこへベルバーソンの剣が、背中へ突き刺さる
しかしビョルンは、“背中を貫かれた状態でなお前進”。
「首をやられたわけじゃない」
とばかりに、歩みを止めずメイスを振り下ろします。
● Corpse Golemエッセンス[肉体爆破]のぶっ壊れ運用
さすがに二撃目の突きで肘を破壊され、
メイスは手からこぼれ落ちます。
そこでビョルンは、
**Corpse Golemエッセンスのスキル[肉体爆破(Flesh Explosion)]**を使用。
- 自分自身の肉体を爆弾として爆散させる
- ダメージは敵も自分もまとめて受ける
- コストはHP=状況によっては“自傷スキル”にもなる
ベルバーソンはビョルンが[酸性液]を持っていることは知っていましたが、
“自分の身体そのものを爆破してくる”という発想までは至っていません。
その結果──
- ベルバーソン:血肉と酸にまみれて大ダメージ&行動不能気味
- ビョルン:片腕死亡+HP大幅消費だが、なお動ける
という結果に。
HPをリソースとして戦況をひっくり返すこの動きは、
完全に「ゲーム脳+バーバリアン精神」のハイブリッドです。
● 盾打ちでカーミラを落馬させる → パーツランがドレイクを仕留める
- メイスを失っても、盾はまだ武器として機能する
- ビョルンは盾でカーミラをぶん殴り、地面に叩き落とす
- そこへパーツランが“折れた剣”を胸へ突き刺し、ドレイクを停止させる
ドレイクが光の粒子になって消えると同時に、
[ドラゴンの生贄]状態も解除。
- これでようやくアヴマンへの回復魔法が通るようになり、
“助かる可能性”が現実的なラインに戻ってきます。
「第一段階は成功だ」
ビョルンはボロボロになりながらも、
プランの最低ライン──“アヴマンを死なせない”──を達成したことを確認します。
4. 人質交換と、アメリア&ミーシャの登場
しかし、ここで終わりません。
- 片腕ズタボロ・HPも残り少ないビョルン
- そこへ、なおも戦えるベルバーソンが剣を首筋に突きつける
一方で、
味方側は地面に倒れているカーミラへ武器を向け、“逆人質”状態。
「そっちが一歩でも動けば、この女は殺す」
「お前たちが剣を下ろさないなら、こっちはこのバーバリアンの首を刎ねる」
という、
わかりやすい人質交換構図が成立します。
緊張感のある沈黙が漂う中──
「ビョルン……? 何が起きてるの?」
ミーシャ登場。
続いて、
「ずいぶんと楽しそうなことになっているじゃないの、バーバリアン。」
と、アメリア・レインウェイルズも姿を現します。
- あれほど探し回っていたミーシャが、ついに合流
- さらに“事件の発端”であるアメリア本人までセットで登場
ここで視点の“前半(ミーシャ側)”と“後半(ビョルン側)”の線がつながり、
ようやく海岸線での全員集合となるわけです。
5. ベルバーソンの交渉と、アメリアの“合理主義”
ベルバーソンは、
アメリアを見て**「まだ勝ち筋がある」と踏んで交渉を始めます。**
「あの宝は、俺が島のどこかに隠した。
俺が死ねば場所は分からなくなる。
それでもいいのか?」
つまり、
- 自分を殺せば“お宝の座標データ”は闇へ消える
- それはアメリアにとっても大損失のはず
- だから自分を生かして逃がせ、という論理
一見もっともらしい人質戦略です。
しかし、アメリアは眉をひそめながらも、
即座に彼の論法を見抜きます。
彼女の口から出たのは、
妙に軽いトーンの話題。
「人を一番ムカつかせる方法、二つ知ってる?」
ベルバーソンもビョルンも、「何の話?」と戸惑います。
- 一つ目:話を途中でやめること
- 二つ目:……教えないまま終わること
と、“ムカつく話し方”の例を出しながら、
段々と彼の注意を引きつけていきます。
「でも残念、あなたは二つ目を聞けないかもね」
という言葉遊びを挟みつつ、
ベルバーソンの注意を完全にアメリアの言葉へと固定した、その瞬間。
「二つ目は──
話しながら、背後から刺すことよ」
直後に表示される、
「アメリア・レインウェイルズは[自己複製]を発動した」
「アメリア・レインウェイルズは[修羅の怒り]を発動した」
のシステムログ。
- すでに彼女は複製体を背後に回していた
- 本体は会話で注意を引きつける“囮役”
- クローンが背後から一撃必殺の蹴りを叩き込む
という、
非常にアメリアらしい**“合理と狡猾さのハイブリッド”**な戦術です。
ベルバーソンは対応しきれず、
こめかみに強烈な一撃を受けてあっさり沈黙。
「なぜ……宝は……」
とかすれ声で問う彼に対し、アメリアは踏みつけながら答えます。
「そんなもの、前から欲しかったわよ。
でもね、あなたに場所を教えてもらう必要はないの。
お姉さん(カーミラ)から聞けばいいだけだから。
拷問には耐えられないでしょうしね」
- 自分にとって価値のある宝
- それでも“情報源A(ベルバーソン)は不要”と判断
- “情報源B(カーミラ)”がいるから、Aは捨て駒
という、
まさに**“情ではなく合理だけで人命の価値を測る人”**としてのアメリア像が、ここで鮮明になります。
6. 第276話のテーマ・見どころ整理
この話には、大きく3つの軸があります。
● ① 「命の線」は誰のものか──ミーシャとアヴマンとカーミラ&ベルバーソン
- ミーシャは、名前もよく知らない赤髪女性の“生”を、命がけでつなごうとする
- ビョルンは、仲間アヴマンの命を救うために自分の腕とHPを差し出す決断をする
- アメリアは、ベルバーソンの命を“情報源としての価値がない”と判断し、あっさり切り捨てる
誰が優しい/冷たい、という単純な話ではなく、
- 「命を守るために、自分は何を差し出せるか?」
- 「命を手段として切り捨てることを、自分はどこまで許容できるか?」
という価値観の差が、
キャラごとにはっきり表現されています。
● ② ゲーム的思考と現実の痛み
- ビョルンのCorpse Golem運用は、完全に“高難度ゲーマーの発想”
- 自傷スキルを「ここぞという時の大技」として使い、戦局を逆転
- しかし、これは実際の肉体の痛みとリスクを伴う現実の自傷でもある
本人は「効率的」「合理的」としてそれを受け入れていますが、
周囲から見れば「自分を傷つけすぎる」危うさでもあります。
ミーシャが距離を置いた理由の一端も、
こういった“自己犠牲の乱用”にあるのかもしれません。
● ③ アメリア・レインウェイルズというキャラの確立
276話ラストのアメリアは、
- 会話で相手を揺さぶる
- その裏で、冷静に最適解(裏取り→クローン→一撃)を用意
- 宝に対しては欲望を隠さない
- しかし情報源としての価値がないと判断した人間は容赦なく切り捨てる
という、“超合理主義的な探索者”として描かれます。
ビョルンの言う通り、
彼女は徹底的に「現実的」かつ「目的志向」。
「尋問に耐えられない方から聞き出せばいい」
という一言は、
これから先の展開においても、
彼女が“味方だけれど簡単には信用できない存在”であることをはっきり示しています。