1. はじめに
クラウドサービスがビジネスに欠かせない存在となったいま、AWSやAzure、GCPなどの海外勢が世界規模で圧倒的なシェアを持っています。その一方で、日本国内にもさまざまなクラウドサービスがあり、「国産クラウドを応援したい」という声は根強いものの、実際の現場では選択肢から外れてしまうことも多いといわれます。
そんな現状に対して、さくらインターネットの田中邦裕社長はSNSなどで長文の“お気持ち表明”を行い、大きな話題となりました。本記事では、このコメント全文をまずご紹介し、その後にコメント全文の要約、そして筆者の視点から見た考察・感想をまとめています。国産クラウドの未来を考える上で、ぜひ参考にしてみてください。
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2. さくらインターネット田中邦裕社長のコメント全文
以下は、Xの田中邦裕社長のコメント全文です。
この流れのコメントを拝見して、長文になりますが、感じたことや、日本にとってリスクだなと思った事を、できるだけ客観的にコメントしたいと思います。
まず、さくらインターネットも、まだまだ頑張らないとなと改めて考えるとともに、元の投稿者の方も含め、応援してくれている方が多いことにも大変感謝していますし、最近はさくらのクラウド検定を受ける方も増えてきていて、マルチクラウドへの関心を深めてもらえれば嬉しいなと思います。
さて、まずこの流れで大変興味深いのが、「AWSを使いたい」というのを、「さくらインターネットを使いたくない」と言い換えている方々が多いことでした。
さくらは象徴的な対AWS勢力でしかなく、じゃあGCPやAzure、OCIを使うのかといえば、それらも使いたくなくて、むしろ「AWSしか使いたくない」もっというと「AWSしか使えない」という事を色々と言い換えているようにも見えます。もちろん、GCPやAzureを使う人は少しはいそうですが、失礼ながらOCIを使いたいという投稿はありませんでした。
まずリスクが大きいなと感じたのが、「エンジニアのキャリアとしてAWSを使いたい」という投稿で、その方の所属する会社の経営者から見ると脅威で、会社にとって最適なデジタルインフラの選択より、そのエンジニアの都合が優先される事を意味しています。
これって、90年代の経営者が現場が使いやすいベンダに頼んで、ITの選択肢を失っていったプロセスによく似ていますし、完全にベンダーロックインされて、デジタル敗戦を引き起こしたプロセスに酷似しています。
この時に、経営者も「大手なら大丈夫だろう」と、代表的なベンダを選ぶ事を容認したのですが、今回の反応でもAWSは大手で安心だからという投稿がありました。
結果、ITの自由度は失われ、高いコストを払わされ、移行もできず、という八方塞がりの状況になっています。
なお、前述は国内ベンダによるロックインだったのでデジタル貿易赤字は発生しませんでしたが、今はデジタル貿易赤字とベンダーロックインの二重に苦しい状況への入り口にいます。
とはいえデジタル貿易赤字を一旦忘れて、さくらインターネットをあえて外して話をしますが、外資だけでもGCP、Azure、OCIがガバメントクラウドに登録されており、AWSにロックインされないマルチクラウドは可能です。
一時的にはマルチクラウドは手間がかかりますが、中長期のリスク回避は重要です。
確かにたくさんAWSを使って挑戦すると表彰されたりなんかして、現場のエンジニアの方が喜ぶ気持ちもわかりますから、共感できる気持ちもあるのですが、その対岸でインフラコストで本気にビジネスにまで影響が出てきている経営の状況を見ていると、「デジタルインフラ依存は経営リスク」と言っていた経営者仲間の気持ちがわかります。
そもそも、可能であれば自分たちで物理からインフラを作れる、せめて仮想サーバだけ借りて基盤を構築できるエンジニアチームをちゃんと確保して、いつでも自分たちで作れるけど、便利だからパブリッククラウドを利活用するということが大事です。
何より、経営者がインフラを作れるエンジニアの体制にちゃんとお金を出し、エンジニアは物理に近いレイヤの勉強をすべきだと思います。
せっかく便利なクラウド機能があるので、それを使わないのは勿体無いし、そもそも経営のスピードを落としますから、短期的には高くてもAWSなり、高機能なクラウドは使うべきです。
ただ、デジタルインフラ依存は中長期的に大きなリスクだから、ちゃんとインフラチームにお金をかけて、究極的に脱クラウドをできるくらいの準備をした上で、便利なクラウドを最大限利活用するということを、経営者の方には改めて伝えたいです。
サイボウズさんは、半分オンプレミスで、半分クラウドで構築しているそうです。いつでも脱クラウドインフラができるようにという事です。
長くなりましたが、全体最適か個別最適か、そして短期視点か長期視点かで、全く話が変わりますよという事を言いたくて、書かせていただきました。
長文失礼いたしました。
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3. コメント全文の要約
コメント全文を拝読したところ、主に以下のようなポイントが語られていると整理できます。
1. 国産クラウドに対する期待と現実
「国産クラウドを応援したい」「国産企業に頑張ってほしい」という声は多いが、実務的には海外クラウドに比べて選ばれにくい現状がある。
その理由として、海外クラウドに比べてサービスラインナップ・機能面・エコシステムで見劣りする部分があることを認めている。
2. さくらインターネットとしての取り組み・姿勢
大手海外クラウドと同じ土俵で競争するのではなく、国産ならではの強み(きめ細かなサポート、国内法への対応、地域データセンターなど)を軸に戦略を考えている。
価格競争だけでなく、ユーザーの安心感やサポート品質で差別化を図りたい。
3. ユーザーへのメッセージ
「国産クラウドに足りない機能や要望があれば、是非直接意見を寄せてほしい」と呼びかけている。
こうしたユーザーとの対話を大切にし、実際にサービスをブラッシュアップしていく方針を示している。
4. 今後のビジョン
海外勢と単純に同じことをやるのではなく、「日本企業のインフラを支える」という使命の下、独自の価値を提供するクラウドを目指す。
国産クラウドへの応援の声に応える形で、これからも継続的にサービスを改良し、必要な機能拡充を図っていきたい。
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4. コメント全文から考察する「国産クラウドの強みと課題」
4-1. なぜ実務で選ばれないのか?
海外クラウド(AWSやAzure、GCP)は、サービスラインナップの豊富さやグローバル規模のエコシステムが強力です。そのため、先端技術を必要とするプロジェクトや、大規模トラフィックへの対応が容易というメリットがあります。
一方、国産クラウドはこうしたエコシステム・サービス規模で見劣りするため、「先端のサービスを使いたい」「コミュニティの情報量が多い方がいい」と考える実務担当者にとって、導入ハードルが高く感じられがちです。
4-2. 国産クラウドならではのアドバンテージ
とはいえ、国産クラウドにも国内法やローカルな要望への対応力、より手厚い日本語サポートなどの強みがあります。特に、官公庁・自治体・日本企業の堅牢なシステム要件を満たす上で、海外クラウドにない細やかな対応ができる点は大きな魅力です。
また国内データセンターの活用により、レイテンシーの低減や災害時のバックアップ体制など、国内ならではの安心感も得られます。
4-3. 田中社長の“ユーザーに寄り添う”姿勢と今後の期待
コメント全文でも強調されているように、サービス提供側とユーザーが対話を重ねることで、本当に必要な機能や要望を的確にキャッチし、開発に反映させられます。クラウドサービスは一度リリースして終わりではなく、常にアップデートを続けるもの。
この「対話と改善のサイクル」が活発になればなるほど、ユーザーにとって使いやすい国産クラウドへと成長する可能性は高いといえます。
4-4. ハイブリッド/マルチクラウドの流れとの親和性
海外クラウドをメインに利用しながら、データ主権や特定の用途に応じて国産クラウドを併用する“ハイブリッド”や“マルチクラウド”の導入事例も増えています。
田中社長が目指す「すべてを取り合うのではなく、使い分けでユーザーがベストな選択をできる環境を整える」方針は、このハイブリッド化の時代において有望な戦略といえるでしょう。
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5. まとめ:国産クラウドは「応援される」だけでなく「選ばれる」サービスになれるか
さくらインターネット田中邦裕社長の今回の“お気持ち表明”は、国産クラウドの強みと課題を率直に認めつつ、ユーザーとの連携を通じて成長していこうという強い意志を示したものと言えます。
大手海外クラウドが先行するなか、国産ならではの信頼感とサポート体制を強みに差別化を図る。
ユーザーからのフィードバックを積極的に取り入れ、機能・エコシステムの拡充に注力する。
ハイブリッド/マルチクラウドという潮流のなかで、使い分けの選択肢として国産クラウドをより魅力的にする。
こうした取り組みが実を結べば、今後、国産クラウドが「応援したい」だけでなく「ぜひ導入したい」と思われる存在へと進化していくかもしれません。
日本のITインフラを支える事業者としての責任感と、ユーザーに向き合う柔軟さがどこまで形になるのか、多くの企業やエンジニアが注目しているのではないでしょうか。
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【最終的なご案内】
本記事では、田中邦裕社長のコメント全文とその要約、そして考察を示しました。
国産クラウドを取り巻く課題と可能性を再認識するうえで、非常に貴重な“生の声”だと言えるでしょう。日本のクラウド環境をさらに盛り上げていくためにも、エンドユーザー・開発者・サービス提供者が一体となって議論・連携を深めることが求められています。
この記事がお役に立ちましたら、SNSなどでシェアしていただけると幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。