転生したらバーバリアンだった 第609話 あらすじ&考察
第609話「謎(2)」――見えない目的地をどう攻略する?
虹色の光柱が示した座標へ到着したビョルンたち。
しかし、そこには島も遺跡もなかった。
海面には何も見えず、錨を限界まで下ろしても海底へ届かない。魔法使いたちが潜って調査しても底は確認できず、さらに上空では高度約200メートルを境に猛烈な風が吹き荒れる。
目的地へ来たはずなのに、目的地そのものが存在しない。
そんな中、上空探索へ参加した隊員が気になる証言を残していた。
「暗闇の中から、確かに何かが私を見下ろしていました」
強風の中では視界も悪く、照明魔法さえまともに維持できない。
当然、見間違いの可能性もある。
遠征隊長も証言だけで「何かがいる」とは断定しなかった。
だがビョルンは、信じるか疑うかという二択にはしない。
見間違いかもしれないなら、もう一度確かめればいい。
第609話では、この「仮説を作り、検証する」というビョルンの攻略思考が中心になっていく。
上空200メートル――二人目も「何か」を目撃する
遠征隊長によれば、上昇できるのは高度約200メートルまで。
そこから先は風が突然激しくなり、飛行魔法で姿勢を保つだけでも難しくなる。
さらに照明魔法の光まで乱されるため、その向こうに何があるのかを目視することも困難だった。
ビョルンは再調査を命じる。
ただし、最初の探索で疲労していた隊員をそのまま送り返すことはせず、一日休ませてから再開することを認めた。
一刻も早く答えを知りたい状況ではある。
それでも百人を超える遠征軍を率いる以上、指揮官の好奇心だけで人員を消耗させるわけにはいかない。
以前のビョルンなら、自分で突っ込んで確認するという選択もあり得ただろう。
だが今は、専門家へ任せ、その専門家が力を発揮できる状態を整えることも指揮官の仕事だと理解し始めている。
翌日、調査隊は再び上空へ向かう。
そして今度は、別の隊員も同じものを見た。
「私も見ました……! 何かがこちらを見下ろしていました!」
一人目だけなら錯覚かもしれない。
だが二人目も同じような証言をした。
さらに記録用の水晶球にも、正体不明の像らしきものがわずかに残されていた。
ただし映像は不鮮明である。
光の屈折にすぎないという意見もあれば、目や鼻のようなものが見えるという者もいる。
人間ではない顔のように見えるという声まで出て、王家の精鋭たちによる調査は一時、怪談映像の検証会のような状態になる。
ビョルン自身も映像を確認するが、これだけで正体を断定することはできない。
それでも状況は変わった。
「一人じゃない。二人だ」
証明ではない。
だが、単なる見間違いとして捨てるには材料が増えすぎた。
そこでビョルンの問いは、
「上に何かいるのか?」
から、
「どうすれば、そこまで行けるのか?」
へ進む。
遠征隊長へ調査を任せるビョルン
ビョルンは上空調査について、遠征隊長へ大きな裁量を与える。
必要なら他部署の人員を使っていい。
一見くだらない方法でも、思いついたなら試していい。
その代わり、成功でも失敗でも結果は報告する。
「これからは、そこの調査についてお前に全権を与える」
これは今のビョルンを象徴する判断の一つだ。
今回必要なのは単純な戦闘力ではない。
飛行魔法、観測、魔道具、記録、水中探索など、複数分野の知識が必要になる。
ならば自分一人で全部考えるより、適任者へ任せた方がいい。
方法は専門家に任せ、結果を集め、最終判断は自分が下す。
ビョルンは少人数の探索者から、大規模遠征軍を動かす指揮官へと役割を変えつつある。
「強風を突破する」という考え自体が間違いなのか
探索を遠征隊へ任せたビョルンは船室へ戻り、ハムシクへ状況を話す。
だがハムシクから画期的な答えが出てくるわけではない。
「うまくいってないみたいだな?」
ほぼ聞き役で終わる。
最近は本を読むようになった影響なのか、以前より少し刺々しくなったハムシクを見て、ビョルンが反抗期でも始まったのかと考える場面は軽い息抜きになっている。
その後、一人になったビョルンは問題を整理する。
百人を超える遠征隊を連れ、猛烈な強風の中を上昇する。
普通に考えれば現実的ではない。
もっと強い飛行魔法が必要なのか。
風を防ぐ魔道具が必要なのか。
別の移動手段を探すべきなのか。
そこで、元プレイヤーであるビョルンは別の方向から考える。
「何か条件を満たして、イベントを発生させる必要があるんじゃないか?」
ゲームには、力を上げても通れない場所がある。
鍵が必要だったり、特定の出来事を起こす必要があったり、決まった時間だけ入口が開いたりする。
ならば今回の強風も、突破すべき障害ではないのかもしれない。
そもそも今は「入れる状態」になっていない可能性がある。
ここでビョルンのゲーム知識は、答えを知る能力ではなく「問いを変える能力」として働いている。
「どうやって強風を突破するか」ではなく、
「本当に強風を突破する必要があるのか」
と考えられることが強みなのである。
虹色の光柱は「場所」ではなく「時間」を示していた?
ビョルンが思い出したのは、雨季終了直後に出現した虹色の光柱だった。
第一地下階の広い範囲から確認できる巨大な光。
出現している時間はおよそ5分。
これまでは「ここに何かある」と知らせる目印だと思っていた。
だから座標を記録し、そこまで船を走らせてきた。
しかし、実際に到着しても何もない。
そこでビョルンは、光柱そのものに意味がある可能性を考える。
「光柱が出ている瞬間、この場所にいたらどうなる?」
もし光柱が単なる案内標識ではなく、何らかのイベント発生を示す現象だったとしたら。
そして、その瞬間にこの座標へいることが条件だったとしたら。
そう考えると、「場所は合っているのに目的地が見つからない」という状況にも説明がつく。
場所ではなく、時間が足りていない。
もちろん、これはまだ仮説である。
だが地理条件を考えると、かなり気になる。
現在地から最寄りの島までは通常航行で約4週間。
以前、石門が存在した島はすでに沈み、現状では図書館島が最寄りになる。
王家遠征軍の船には魔道工学式の推進装置があり、大量の魔石を使えば速度を上げられる。
それでも約5分しか出現しない光柱を見てから移動するのは不可能だ。
つまり本当に光柱の発生中に現地へいる必要があるなら、
光が出る前から、この場所で待たなければならない。
そして、それは雨季をここで迎えることを意味する。
この孤立した場所そのものが、攻略条件の一部なのかもしれない。
ただしビョルンは、この仮説だけを信じて即座に決断したわけではない。
まだ試せることがあるなら試す。
それでも答えが出なければ、時間条件を検証する。
あくまで順番を踏んでいる。
空と海――失敗を重ねる遠征隊
それから数日、遠征隊長の指揮でさまざまな実験が行われた。
上空探索で試したのが、記録水晶球を矢へ取り付けて射出する方法だ。
人間が強風域へ入るのが危険なら、観測装置だけ送り込めばいい。
矢なら短時間で高度を稼げる。
発想自体は合理的だった。
準備を重ねて射出し、水晶球の回収にも成功する。
「再生しろ! 早く!」
ところが映像は残っていなかった。
落下時の衝撃で、内部の回路が壊れてしまったのだ。
実験としては失敗。
しかし、無意味ではない。
上へ送り込むことはできた。問題は、情報を壊さず持ち帰る方法だ。
失敗原因が分かれば、次に改良すべき場所も分かる。
同時に遠征隊長は海中も調べていた。
今度は記録水晶球へ重りを取り付け、海底方向へ沈める。
一定時間が経過したら重りを切り離し、水晶球の周囲へ空気層を作る。
浮力で海面へ戻し、人間が潜れない深さの映像を得ようという仕組みだ。
ところが、こちらも失敗。
原因は水圧だった。
防護魔法を使っても、水晶球そのものが深海の圧力に耐えられない。
空では衝撃。
海では水圧。
未知領域へ人間が到達できないだけでなく、既存の魔道具も環境へ追いついていないことが分かる。
「帰ったら、どんな環境でも壊れない記録水晶球を必ず作ります」
遠征隊長は悔しさを技術開発への意欲へ変える。
ビョルンも、文明というものはこうした必要から発展していくのかもしれないと考える。
行きたい場所がある。
今の道具では届かない。
だから、もっと丈夫な道具を作る。
魔法のある世界でも技術は万能ではなく、素材や構造、耐久性といった物理的制約が残っていることを示す場面でもある。
王家遠征軍の強みは「組織そのものが能力になる」こと
この間、ビョルン自身がすべての実験へ参加しているわけではない。
矢を射る者がいる。
魔道具を調整する者がいる。
飛行魔法を使う者がいる。
海中探索を考える者もいる。
そして遠征隊長が彼らを動かす。
これまでのビョルンは、難題が起これば自分が身体を張って解決することが多かった。
だが今回は違う。
百人を超える専門家集団そのものが、ビョルンの戦力になっている。
未知の問題では、単純な個人戦闘力だけではなく「どれだけ多くの方法を試せるか」が重要になる。
遠征隊長の価値もそこにある。
空が駄目なら海。
海が駄目なら道具。
失敗したら原因を分け、次の方法を試す。
結果そのものより、探索を止めずに前へ進められることが強みなのだ。
甲板から人が消えた理由
もっとも、遠征隊長へ全権を与えたことで思わぬ副作用も起きていた。
船内を見回ったビョルンは、甲板に人が少ないことに気づく。
理由を尋ねると、答えは意外だった。
「みんな部屋に隠れています」
遠征隊長に捕まるからだ。
ビョルンが「必要なら他部署の人員も使っていい」と許可した結果、新しい実験を思いつくたび、遠征隊長が目についた隊員を連れていくようになったらしい。
外へ出る。
見つかる。
実験へ連行される。
そのため用事のない隊員たちは、なるべく船室から出なくなっていた。
コミカルな場面ではあるが、遠征隊長がそれだけ真剣に調査へ取り組んでいる証拠でもある。
権限を与えられた人間が、それを最大限使って探索の試行回数を増やしているのである。
アイナル対アメリア――船上で続く訓練
自分たちの船へ戻ったビョルンを待っていたのは、アイナルの叫び声だった。
「ビヨーン! 助けて! 休みたい……!」
アイナルは高価なエメラルドの槍を投げ捨て、ビョルンへ逃げ込もうとする。
ビョルンは身体を横へずらしてかわし、止まりきれなかったアイナルはそのまま前へ転がる。
後ろにいたのはアメリア。
二人は甲板上で訓練していた。
現在のアイナルは以前のように、自分の意思だけで鍛錬を続けることが難しい。
そのためアメリアが訓練内容を決め、相手役まで務めている。
しかも、これはビョルンが命じたことではない。
アメリア自身が続けている。
ビョルンは、彼女が以前より仲間へ情を持つようになってきたのではないかと感じている。
断定はできないが、少なくとも自発的にアイナルの面倒を見ているという変化は確かに描かれている。
休ませてほしいと訴えるアイナルに対し、アメリアは条件を出す。
「一発でも私に当てられたら、今日の訓練は終わりだ」
相手はアメリア。
ただ槍を振り回すだけでは当たらない。
槍は長い間合いを持つ一方、穂先の軌道を外されれば次の動作まで隙ができやすい。
単調に突けば読まれる。
同じ位置から攻めれば回避される。
一発を当てるためには、間合いを調整し、相手の回避方向を読み、攻撃を組み立てなければならない。
つまりアメリアは、単純な終了条件を与えながら、実際にはアイナルへ自分で戦闘を考えることを要求している。
「当てれば休める」と聞いたアイナルはすぐに槍を取り直し、再びアメリアへ向かう。
大規模な実戦ではないが、仲間の状態と関係性を示す重要な戦闘場面になっている。
雨季まであと3日――探索を終える理由
そうして調査を続けるうちに、雨季まで残り約3日となる。
ビョルンは幹部を集め、決断を告げた。
「探索は今日で終わりだ」
遠征隊長は、自分たちが成果を出せなかったため調査を打ち切られたのだと思う。
上空へ到達できない。
海底も確認できない。
記録水晶球を使った実験も失敗した。
だが、ビョルンはその働きを高く評価していた。
突破口は見つけられなくても、何ができて何ができないのかはかなり分かった。
二人目の目撃者も得た。
空と海から異なる手段を試した。
失敗そのものが情報になっている。
だから探索終了は、失望したからではない。
遠征隊長が雨季の接近を理由だと考えると、ビョルンは答える。
「半分正解で、半分間違いだ」
雨季が近いから探索を終える。
そこまでは正しい。
しかし、撤退するためではない。
残るための準備へ時間を使うためだ。
そしてビョルンは最終判断を告げる。
「俺たちは、ここで雨季を過ごす」
これが第609話の結論となる。
第609話考察――「通れない」と「まだ通れない」は違う
ビョルンの判断だけを見ると、かなり危険な賭けに見える。
しかし、ここまでの情報を順番に並べれば思いつきではない。
虹色の光柱が示した座標へ来た。
そこには周囲と異なる環境がある。
海底は異常に深い。
上空には異常な強風があり、その向こうで二人が何かを目撃した。
通常の探索方法を何度も試したが、直接到達する方法は見つからない。
さらに光柱は雨季終了直後に短時間しか出現せず、他の島から見てから向かっても間に合わない。
この情報から、
目的地は常に見えている場所ではなく、特定条件を満たしたときだけ現れるのではないか
という仮説が生まれる。
ここで大事なのが、「通れない」と「まだ通れない」の違いだ。
単純な能力不足なら、より強い魔法や装備を用意すればいい。
だが条件不足なら、強くなっても意味はない。
必要なのは条件を特定することだ。
今回、ビョルンは物理的な突破方法を十分に試したうえで、攻略方針そのものを切り替えている。
攻略の構築理論――座標、条件、起動の三段階
今回の探索は、三つの段階に分けると分かりやすい。
まず、虹色の光柱を見て座標を特定する。
次に、その場所の海中や上空を調べ、通常の方法では目的地へ到達できないという条件を確認する。
最後に、雨季終了や光柱の発生が入口を開くための起動条件ではないかと推測する。
この考え方によって、目的地探しは単純な地形探索ではなく、仕掛けの攻略へ変わる。
そしてもう一つ重要なのが、失敗の扱い方だ。
矢に付けた水晶球が壊れた。
海中へ沈めた水晶球も壊れた。
結果だけ見れば失敗だが、
「射出はできる」
「回収時の衝撃が問題」
「深く沈めることはできる」
「水圧への耐久性が問題」
という情報は残る。
失敗原因を分解し、次の仮説を作る。
これが遠征隊長の探索方法であり、それを最終的な判断材料へ変換するのがビョルンの役割である。
ゲーム知識と組織運用が、ここで一つにつながっている。
用語・世界設定解説
虹色の光柱
雨季終了時に現れた巨大な光柱。
ビョルンたちはその位置を記録し、現在地を特定した。
第609話では単なる目印ではなく、光柱が発生している瞬間そのものに意味がある可能性が考えられている。
ただし、この段階ではまだ仮説である。
凪の領域
ビョルンたちが目的座標付近で確認している、周囲とは異なる海域。
島や建造物は見えなくても環境に明確な変化があるため、座標そのものを完全に間違えたとは考えにくい材料になっている。
記録水晶球
映像を保存できる魔道具。
今回は人間が直接到達できない上空や深海を調べるために使われた。
一方で落下衝撃や高水圧には耐えられず、魔法世界における技術的限界も示している。
遠征隊長
未知領域の調査を実務面で担当する責任者。
ビョルンから大きな裁量を与えられ、空と海の双方で多数の実験を行った。
最終的な突破方法は見つからなかったものの、失敗を通じて攻略条件を絞り込む能力を発揮している。
まとめ――答えがないなら「問い」を変える
第609話では、派手な大規模戦闘は起きない。
それでも攻略面では大きく状況が動いた。
海底へ届かない。
上空へ進めない。
観測装置も壊れる。
それでもビョルンは、「もっと強い方法が必要だ」と考え続けるだけではなかった。
「何か条件を満たして、イベントを発生させる必要があるんじゃないか?」
この発想によって、虹色の光柱の意味が変わる。
場所を示す目印ではなく、特定のタイミングで何かを起こすための現象かもしれない。
だから光が出てから向かうのでは遅い。
先に現地へ入り、雨季をそこで越える。
まだ正解とは限らない。
何も起きない可能性も残っている。
それでも、通常探索を十分に行い、その失敗から情報を集めたうえで選んだ次の検証である。
同時にビョルン自身も、自分一人で解決する探索者から、専門家へ任せて結果を統合する指揮官へ変わりつつある。
ゲーマーとしての攻略思考と、遠征軍を使う組織運用。
その二つを組み合わせた末に出した答えが、
「俺たちは、ここで雨季を過ごす」
という決断だった。
第609話は、「目的地がどこにあるのか」を探す段階から、「どうすれば目的地が現れるのか」を解く段階へ移った転換点だと言える。
