『転生したらバーバリアンになった』小説版・第509話ロングあらすじ【初心者向け・保存版】

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Surviving the Game as a Barbarian | Chapter: 509 | MVLEMPYR
It resembled a Frogman in its basic form. Its belly was round, as if filled with air, and its fingertips had suction cup...

【徹底解説】複数のスキルを宿す新種マクガフィンとハンスAの家族画|『転生したらバーバリアンだった』第509話あらすじ&考察

地下1階層の銀色の海で、ビョルンたちは未知の魔物と初めて本格的に交戦する。

現れたのは、フロッグマンに似た灰色のカエル型モンスターだった。

丸く膨らんだ腹、指先の吸盤、カエルを思わせる顔つき。だが、皮膚は緑色ではなく灰色で、フロッグマンの象徴である銛も持っていない。

さらに背中には、紙から切り抜いた部品を貼りつけたような、不自然な翼が生えていた。

一見すると飾りにも見えた翼を羽ばたかせ、十五体の魔物が船体から甲板へ飛び乗ってくる。

だが、ビョルンはすぐに倒そうとはしなかった。

この新種が使用したのは、フルミナスの《雷棘》、鉄のハヤブサの《鉄羽》、シーワームの《泡の盾》。さらにフロッグマン由来の《腐敗粘液》まで持っていた。

異なる魔物の能力を組み合わせた新種。

討伐しても得られない経験値。

そして《初心者の幸運》によって出現した、未知の聖水。

地下1階層で見つかったのは、新しい魔物だけではなかった。これまで固定されていた聖水構築の常識を覆しかねない、新たな可能性だったのである。

そして物語の最後には、ビョルンが何年も前に迷宮へ捨てたはずの、ハンスAの家族画が銀色の海から回収される。

未来の構築を変える新種と、過去の記憶を呼び戻す家族画。

第509話は、地下1階層が可能性に満ちた新天地であると同時に、迷宮で失われた物と死者の痕跡が集まる「墓」である可能性を示した回だった。

翼を持つ灰色のフロッグマン

船へ登ってきた魔物は、基本的な体つきこそフロッグマンに似ていた。

腹は空気を詰め込んだように丸く膨らみ、指先には船体へ張りつくための吸盤が並んでいる。

しかし、細部は大きく異なる。

灰色の皮膚。

武器を持たない手。

そして、身体との一体感がない奇妙な翼。

通常のフロッグマンは銛を使い、突きや投擲によって戦う。ところが、この新種には牙も鋭い爪もなく、攻撃に使えそうな武器もなかった。

何を使って戦うのか、外見からは判断できない。

ビョルンはアメリアに危険度を尋ねた。

《危険感知》は相手の正式な等級や能力を教えるものではない。それでも、これまで遭遇した魔物との比較から、おおよその危険度は推測できる。

アメリアの判断では七級未満。

少なくとも、現在のビョルンたちへ大きな脅威を与える相手ではなかった。

だが、ビョルンは油断しない。

攻撃力が低くても、毒や呪い、装備を腐食させる体液などを持っている可能性はある。

何より、地下1階層には攻略情報が存在しない。

弱い相手だからこそ、仲間を大きな危険へさらさず、能力を詳しく調べられる。

「まだ攻撃するな。先に情報を集める。」

真っ先に突撃しようとしていたアイナルは、勢いを殺して足を止めた。

敵が目の前にいるのに攻撃できないことへ不満はありそうだったが、それでもビョルンの命令に従った。

未知の魔物を即座に倒せば、どのような攻撃を使うのか確認できない。

毒や状態異常の有無。

攻撃距離。

防御能力。

群れでの連携。

一度目の遭遇で得られる情報は、今後の地下1階層探索における基準になる。

ビョルンは討伐の速さより、情報の価値を優先した。

《野性解放》で未知の攻撃を受ける

相手の能力を確認するには、実際に攻撃させる必要がある。

だが、誰を狙うか分からない状態で待てば、後衛のベルシルやエルウィンへ攻撃が向かうかもしれない。

耐久力の低いアウエンが狙われれば、七級未満の相手でも事故が起きる可能性がある。

そこでビョルンは《野性解放(Wild Release)》を発動した。

「ベヘル――ラァァァァァ!」

ビョルンの脅威度が高まり、十五体の新種が一斉に彼へ視線を向ける。

未知の攻撃を検証するなら、最も耐久力の高い者が引き受けるべきだ。

ビョルンは盾を構え、帆や操舵設備から離れた甲板中央へ進み出た。

船上で警戒すべきなのは、仲間の被害だけではない。

未知の攻撃が爆発や腐食を伴えば、船体や帆を損傷する可能性がある。航行不能になれば、敵を倒しても生還できなくなる。

ビョルンは自分へ攻撃を集めることで、仲間と船の両方を守ろうとしていた。

新種たちは姿勢を低くし、腰を高く持ち上げた。

突進してくるのかと思われた次の瞬間、電気の弾ける音が響く。

身体から発射されたのは、青白い電流を帯びた棘だった。

ビョルンは盾で大半を受け止める。防ぎ切れなかった棘も腕や肩へ当たったが、皮膚を傷つけることすらできない。

麻痺や感電もない。

それでもビョルンは、その場で動きを止めた。

攻撃を受けたからではない。

使われた能力に、はっきりと見覚えがあったからだ。

フルミナスの《雷棘》

ベルシルも異変に気づき、言葉を詰まらせる。

その続きをエルウィンが口にした。

「フルミナスの《雷棘》に見える……。」

フルミナスは、第3階層から第4階層付近に現れる三級の雷属性モンスターである。

代表的な能力が、電気を帯びた棘を発射する《雷棘》だった。

攻撃時の姿勢。

棘の形。

電流の走り方。

新種が使った技は、フルミナスの能力とほぼ同じだった。

威力は七級未満に抑えられているものの、三級モンスターの固有能力を別種の低等級モンスターが使用した事実は変わらない。

ビョルンは一瞬、特殊な上位変異種の可能性を考えた。

しかし、甲板にいる十五体すべてが同じ《雷棘》を使っている。

一個体だけが偶然獲得した能力ではない。

この新種は、種族単位でフルミナスのスキルを持っている可能性が高かった。

通常、魔物の能力は身体構造や生態と結びついている。

雷属性の魔物は、電気を発生させる器官を持つ。

飛行型なら、翼や羽を使った能力。

水棲種なら、水や泡に関係する能力。

ところが、灰色のカエル型モンスターは、フルミナスと同じ身体を持っていない。それでも《雷棘》を再現している。

この時点で、ビョルンの中に警戒とは別の感情が芽生え始めた。

未知の構築を発見したプレイヤーとしての、純粋な好奇心である。

三種類の能動スキル

ビョルンは攻撃命令を出さず、観察を続けた。

すると新種は、《雷棘》とは異なる能力を次々と使用する。

不自然な翼が金属のような光沢を帯び、硬い羽へ変化した。

鉄のハヤブサが持つ《鉄羽》である。

さらに別の個体の周囲には無数の泡が集まり、身体を守る薄い膜を作った。

こちらはシーワームの《泡の盾》だった。

フルミナスの《雷棘》。

鉄のハヤブサの《鉄羽》。

シーワームの《泡の盾》。

生息地も身体構造も異なる、三種類の魔物の能動スキルが一つの種族へ組み込まれている。

しかも、一部の特別な個体だけではない。十五体すべてが同じ能力を持っていた。

これは突然変異では説明しにくい。

迷宮が複数の魔物の能力を意図的に組み合わせ、新たな種族を作ったと考える方が自然だった。

完全に新しいスキルを持つ魔物ではない。

既存スキルを再編集して作られた魔物である。

フロッグマン由来の《腐敗粘液》

能動スキルを確認したビョルンは、受動スキルについても調べようとした。

受動能力は、魔物が技として発動するわけではないため、観察するだけでは判別しにくい。

防御力の上昇。

属性耐性。

回避補助。

攻撃を受けた際に発生する反応。

実際に攻撃しなければ分からない能力も多い。

ビョルンは一体を捕獲するつもりで、威力を抑えてハンマーを振るった。

だが、確実に当たるはずの一撃が、新種の皮膚を覆う粘液によってわずかに軌道をそらされる。

《腐敗粘液》によって攻撃が外れたのだ。

それはフロッグマンが持つ受動能力だった。

外見だけでなく、基礎となる受動スキルもフロッグマンから引き継いでいる。

つまり、この新種はフロッグマンを土台として、三種類の能動スキルを追加した存在と考えられる。

フロッグマンの《腐敗粘液》。

フルミナスの《雷棘》。

鉄のハヤブサの《鉄羽》。

シーワームの《泡の盾》。

四種類の技能が、一体の魔物へまとめられていた。

必要な情報は集まった。

「もう十分だ。全部倒せ。」

ビョルンが命じると、待ち切れなかったアイナルが真っ先に飛び出した。

七級にも届かない魔物たちにとって、ビョルンの仲間はあまりにも強すぎる。

アイナルの武器が一体を吹き飛ばし、エルウィンの矢が別の個体を射抜く。

ベルシルも船体を傷つけない範囲で魔法を使い、甲板上の新種を処理した。

観察に費やした時間と比べれば、戦闘そのものは一瞬で終わった。

経験値を持たない新種

新種を倒した瞬間、ビョルンは違和感を覚えた。

通常なら、低等級の魔物であっても、討伐時にはわずかな経験値を得た感覚がある。

ところが今回は何もなかった。

ビョルンだけではない。

確認すると、アイナル、エルウィン、ベルシル、ミーシャ・カルシュタインも経験値を得ていなかった。

別班として絆の魔法で結ばれているアメリアとアウエンも同様である。

絆の魔法の不調や個人の問題ではない。

新種そのものが経験値を持っていないか、地下1階層では通常と異なる法則が働いている可能性が高い。

もし地下1階層の魔物がすべて経験値を持たないなら、ここで狩りを続けても通常の成長はできない。

希少な素材や聖水を得られたとしても、育成効率という点では大きな欠点になる。

一方、新種だけが経験値を持たないのであれば、その成り立ちが理由かもしれない。

既存の魔物の情報を組み合わせただけの複製体。

技能を動かすために作られた器。

迷宮が生み出した疑似生命体。

独自の経験値情報を持っていない存在なら、討伐しても経験値が発生しないことにも説明がつく。

新しいスキルが存在しない可能性に、ビョルンはわずかな落胆を覚えた。

しかし、すぐに別の考えが浮かぶ。

完全新規のスキルがなくても、既存の能力を異なる組み合わせで得られるなら、構築面での価値はむしろ大きいかもしれない。

9999番《初心者の幸運》が生んだ聖水

経験値が入らない理由を考えていた、そのときだった。

番号付きアイテム9999番《初心者の幸運》が発動する。

ビョルンは倒れた新種の跡へ視線を向けた。

そこには一つの結晶が残されていた。

聖水(Essence)である。

「聖水だ……!」

経験値を持たない新種が、聖水を落とした。

しかも、誰も能力を知らない完全新種の聖水である。

ビョルンはすぐにベルシルへ保管を命じた。

聖水は放置すれば消えてしまう。その場で吸収しない場合は、専用の試験管へ封じなければならない。

ベルシルは緑色の聖水を慎重に回収する。

残りの試験管は二十七本。

メルベスから受け取った分に加え、ベルシル自身が予備を持ち込んでいた。

未知の階層で新種の聖水が複数得られる可能性を考えれば、非常に価値の高い準備だった。

ビョルンは、使用済みの試験管も捨てずに残すよう指示した。

どの海域で、どの個体から、何色の聖水を得たのか。

今後、同じ外見の魔物から別の能力が得られる可能性もある。

聖水だけでなく、発見時の状況まで整理しなければ、新階層の法則は解明できない。

聖水構築を変える「能力の組み替え」

従来の聖水構築では、一つの聖水に含まれる技能と基礎補正を一式として受け入れる必要がある。

欲しい能動スキルがあっても、残りの能力が構築に合わなければ採用しにくい。

優秀な受動能力でも、等級が低く基礎能力が不足していれば、高階層向けの最終構築には残しづらい。

探索者が保持できる聖水の数には限りがあるため、一枠の無駄が全体の強さへ大きく影響する。

だが、新種が既存能力を別の組み合わせで持つなら、この制約が崩れる可能性がある。

欲しい技能を含み、不要な技能を持たない個体を探せるかもしれない。

能力は優秀だが、聖水全体としては採用できなかった技能を、別の構成で手に入れられる可能性もある。

ビョルンが考えたのは、鋼鉄巨人の有用な能動スキルだけを取り出し、《巨体化(Gigantification)》と組み合わせる構築だった。

《巨体化》は、身体を巨大化し、筋力や耐久力を大幅に上げる。

そこへ鋼鉄巨人由来の技能を理想的な形で加えられれば、攻撃力と防御力をさらに強化できる。

しかし、通常は不要な能力や基礎補正も含め、一つの聖水枠を消費しなければならない。

新種の聖水なら、必要な能力だけが別の有用な技能と組み合わされているかもしれない。

もう一つの例が、オーク英雄の《英雄の道》である。

体力が減るほど身体能力が上昇する優秀な受動スキルだが、五級聖水であるため基礎能力が低い。

《巨体化》や《一体化》と組み合わせる構築でなければ、より高等級で総合性能の高い選択肢がある。

だが、《英雄の道》を高い基礎補正と有用な能動スキルを持つ別の聖水で得られるなら、最大の弱点を克服できる。

これまでは、魔物が持つ完成済みの技能セットから選ぶしかなかった。

地下1階層では、理想に近い技能セットを持つ個体を探せるかもしれない。

聖水構築は「完成品を比較する作業」から、「理想の部品構成を厳選する作業」へ変わる可能性がある。

《上位歪曲》による新種の狩猟

甲板を片づけた一行は、銀色の海での航海を再開した。

すると、同じ新種が繰り返し海中から飛び出してくる。

灰色の身体が波を破り、吸盤で船体へ張りつき、翼を羽ばたかせて甲板へ上がってくる。

この周辺海域は、新種の生息地らしい。

船を獲物として見ているのか、浮島のような足場として認識しているのかは分からない。

だが、同じ魔物が連続して現れるなら、研究素材を確保する好機でもある。

未知の魔物は、皮膚、吸盤、翼、内臓、魔力器官のすべてに価値がある。

魔術塔へ持ち帰れば、高値で取引される可能性が高い。

ただし、アイナルの強烈な一撃や、広範囲の攻撃魔法を使えば、身体が大きく損傷する。

そこでベルシルは、六級時空魔法《上位歪曲》を使用した。

空間がゆがみ、甲板へ飛び乗ろうとした新種の進路が変えられる。

船縁を越えるはずだった個体は着地点をずらされ、甲板へ叩きつけられた。

別の個体は仲間同士で衝突する。

《上位歪曲》は爆発で敵を破壊する魔法ではない。

位置や移動方向へ干渉するため、船体や帆を傷つけにくく、素材の損傷も抑えられる。

敵を一箇所へ集め、ビョルンたちが必要最低限の攻撃で仕留める。

最初の戦闘は能力を調べるための観察だった。

二度目以降は、研究価値を残すための採集へ変わった。

得た情報を使い、より安全で、より利益の高い狩り方へ切り替える。

ビョルンたちは、未知の環境でも着実に探索方法を最適化していた。

新種モンスターの命名会議

航海中、アイナルがビョルンへ尋ねた。

この新種を何と呼ぶのか。

ビョルンは答えに詰まった。

既知の魔物には最初から名前があり、姿を見れば名称や能力を思い出せた。

しかし、この新種には誰も名前をつけていない。

エルウィンもベルシルも、正式な命名方法を知らなかった。

おそらく、最初の発見者に命名権があるのだろう。

新しい魔物の名前は、魔術塔の報告書や探索者ギルドの記録、海図にも使われる。

命名は単なる遊びではない。

名前のない存在を、人類の知識体系へ組み込むための最初の作業である。

アメリアが提案したのは「ナナリ」だった。

灰色の皮膚を持ち、電気の棘を飛ばし、船へ群れで飛び乗る魔物とは思えない、かわいらしい響きである。

ビョルンが、魔物ではなくペットへ名前をつけるのではないと指摘しても、アメリアは気にしなかった。

さらに、ナナリへ投票した者へ一万ストーンを払うと買収を始める。

後には二万ストーンへ金額を引き上げた。

アイナルは「アルティマ・サンダー」のような強そうな名前を提案する。

別の候補は、新種の特徴をすべて組み合わせた「シーファルコン・フロッグマン」だった。

能力と外見は伝わるものの、長く呼びにくい。

いくつかの候補が出た後、投票が行われた。

結果はマクガフィンが七票。

シーファルコン・フロッグマンが三票。

ナナリが二票。

キルルが一票。

参加者より票数が多い理由は、団長であるビョルンの一票が、クラン構成員と同じ数として扱われたからだ。

ベルシルは思わず、民主的ではないと抗議する。

だが、この世界で「民主主義」という現代的な概念は一般的ではない。

ビョルンが意味を知らないふりをして聞き返すと、ベルシルは自分の失言に気づいて黙り込んだ。

日常的な言葉一つでも、前世の知識を無意識に口にすれば、プレイヤーであることを疑われる可能性がある。

軽い命名会議の裏でも、異世界人としての秘密を守る緊張は続いていた。

こうして、新種の名前は「マクガフィン」に決まった。

船上で割り振られる仲間の仕事

命名が終わると、ビョルンは全員を持ち場へ戻した。

エルウィンは見張り台。

アメリアとアウエンは航海と海図作成。

ベルシルは漂流物の回収と分類。

アイナルには甲板の掃除が命じられた。

戦闘後の甲板には、新種の体液や破片が残っている。

放置すれば足を滑らせる原因となり、腐食性や毒性があれば船体にも影響する。

清掃は単なる雑用ではなく、次の戦闘へ備える重要な仕事だった。

だが、アイナルはミーシャ・カルシュタインが何もしていないと不満を述べる。

ミーシャは航海や分析の専門家ではなく、平穏な航海中には明確な担当がなかった。

そこでビョルンは、甲板へ現れる魔物の処理役を任せる。

低等級の敵をミーシャが対応すれば、ビョルンとアイナルは大型魔物へ備えられる。

役割がなかった仲間へ仕事を与え、同時にアイナルの不満も抑える。

ビョルンは能力だけでなく、仲間の感情も考えながら船内を運営していた。

銀色の海から回収された乾いた絵

船内を巡回していると、ベルシルがビョルンを呼んだ。

周囲には、銀色の海から集めた本や武器、生活用品が並んでいる。

ベルシルが差し出したのは、一枚の絵だった。

迷宮の新階層から見つかった美術品なら、都市で高値がつく可能性がある。

しかし、ベルシルが気にしていたのは価値だけではない。

海に浮かんでいたにもかかわらず、紙がまったく濡れていなかった。

水を吸った痕跡もなく、絵の具もにじんでいない。

銀色の海が通常の液体ではないことを示す、明確な証拠だった。

木造船を浮かべる一方で、紙を濡らさない。

物を腐らせず、長い時間保存する。

通常なら沈む物まで海面へ浮かせる。

銀色の海は、物体を濡らす水ではなく、迷宮内の物を保存しながら運ぶ媒体なのかもしれない。

ビョルンが絵を受け取り、内容を確認する。

描かれていたのは海景ではなかった。

一人の男性。

その隣の女性。

二人の間で明るく笑う幼い少女。

専門家が描いた美術品ではなく、三人の家族を素朴な線で描いた絵だった。

ベルシルは、ビョルンが描かれた人物を知っているのかと尋ねる。

ビョルンは家族そのものを知らない。

だが、その絵が何なのかは知っていた。

ハンスAの家族画との再会

それは、ハンスAが持っていた家族画だった。

ビョルンが迷宮へ入り始めたばかりのころに目にし、何年も前に自分の手で迷宮へ捨てた物である。

持ち帰ったわけではない。

誰かへ渡したわけでもない。

別の階層へ置き去りにしたはずだった。

その絵が今、地下1階層の銀色の海から回収された。

偶然、同じ構図の絵が存在したとは考えにくい。

家族を直接知らなくても、ビョルンが見間違える理由はなかった。

この発見によって、無関係に見えた漂流物へ共通点が生まれる。

衣装棚。

暖炉。

本。

錆びた剣。

騎士の兜。

片方だけの靴下。

それらはすべて、迷宮のどこかで捨てられた物、失われた物、所有者を失った物なのかもしれない。

地下1階層の銀色の海は、迷宮全体で失われた物が流れ着く終着点。

探索者の遺品や、滅びた場所の残骸を保存する巨大な墓場である可能性が浮かび上がった。

考察|地下1階層は迷宮の再利用施設なのか

マクガフィンと漂流物を同時に考えると、地下1階層の役割について一つの仮説が成立する。

ここは、迷宮全体で失われた物と情報を集め、保存し、再利用する場所なのではないか。

各階層で捨てられた物は銀色の海へ送られる。

魔物が持っていた技能情報も集められ、別の組み合わせで新種へ与えられる。

古い物を保存し、能力を再構築する。

人間から見れば墓場だが、迷宮から見れば資源の回収施設なのかもしれない。

この仮説が正しければ、マクガフィンが経験値を持たない理由も説明しやすい。

彼らは自然に生まれた独立種ではなく、回収された魔物情報から作られた再利用品である。

固有の成長情報を持たず、複数の技能を動かす器として存在しているのかもしれない。

銀色の海へ浮かぶ物と、海から現れる新種は、別々の謎ではない。

どちらも、失われたものを集め、別の形で残す地下1階層の機能を示している可能性がある。

「墓」という題名が示すもの

第509話の題名は「墓」である。

今回、一般的な墓地や墓石は登場していない。

それでも、ハンスAの家族画が現れたことで、題名の意味が見えてくる。

地下1階層は、探索者の遺品が集まる墓なのかもしれない。

迷宮で死亡した者の武器、衣類、個人的な品が、所有者を失ったまま海を漂い続けている。

家具や暖炉まで流れ着いているなら、滅びた都市や集落の墓である可能性もある。

そしてビョルンにとっては、忘れたことにしていた過去の墓でもある。

ハンスAの家族画は、迷宮へ入ったばかりのころの記憶と、生き残るために選んだ判断を呼び戻す。

強敵であれば、戦うか逃げるかを選べる。

しかし、過去の後悔や死者の記憶は、武器で倒すことができない。

地下1階層の探索は、新しい聖水や宝を得る冒険であると同時に、ビョルンが過去に失った者たちと向き合う旅になるのかもしれない。

用語解説

マクガフィン

地下1階層で発見された、灰色のカエル型モンスター。吸盤と翼を持ち、七級未満と推測される。フロッグマンの《腐敗粘液》、フルミナスの《雷棘》、鉄のハヤブサの《鉄羽》、シーワームの《泡の盾》を使用する。討伐しても経験値を得られない。

《野性解放》

ビョルンが自身の脅威度を高め、敵の注意を集める能力。今回は未知の攻撃を仲間へ向けさせず、耐久力の高いビョルンが安全に受けて性能を確認するために使われた。

《雷棘》

三級の雷属性モンスター、フルミナスが使う攻撃能力。電撃を帯びた棘状の飛び道具を発射する。マクガフィンが使用したものは同じ形だったが、威力は七級未満だった。

《鉄羽》

鉄のハヤブサが持つ、羽を金属のように硬化させる能力。防御や攻撃へ応用できる。今回得られた緑色の聖水に含まれている可能性がある。

《泡の盾》

シーワームが使う防御能力。泡の膜を身体の周囲へ作り、攻撃を軽減する。

番号付きアイテム9999番《初心者の幸運》

低確率で幸運な出来事を引き起こす番号付きアイテム。今回の戦闘では、マクガフィンから希少な聖水を獲得するきっかけとなった。

まとめ

第509話では、地下1階層の新種マクガフィンが、複数の既存モンスターの技能を組み合わせた存在だと判明した。

経験値を持たない一方、聖水を落とす可能性があり、既存の聖水構築を大きく変える存在になり得る。

欲しい能力を理想的な組み合わせで得られるなら、低等級ゆえに採用しにくかった技能や、不要な能力とセットになっていた技能が再評価される。

《巨体化》を中心とするビョルンの構築でも、《英雄の道》のような優秀な技能を、高性能な構成へ組み込める可能性が生まれる。

一方、銀色の海から回収されたハンスAの家族画は、地下1階層が迷宮内で失われた物の終着点である可能性を示した。

物を濡らさず、朽ちさせず、元の状態で保存する海。

既存モンスターの技能を再利用して作られた新種。

地下1階層は、失われた物と情報を集め、別の形へ再構築する場所なのかもしれない。

新しい可能性を与える聖水と、過去を突きつける家族画。

第509話は、地下1階層が宝物庫であると同時に、迷宮へ蓄積された死と記憶の「墓」であることを示した回だった。

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