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統合版です。重複していた説明を整理しつつ、長老への疑念→戦力不足の認識→雨季を利用した強化→聖水枠増加→長老と不死の考察が一本の流れになるよう調整しました。表記も「聖水」「アイナル」などv2.2準拠で統一しています。
【第529話】雨季は災害ではなく経験値の宝庫?長老の「不死」への執着も判明|『転生したらバーバリアンだった』あらすじ&考察
巨人島でポータルストーンを発見し、脱出への手がかりを一つずつ集め始めたビョルンたち。
しかし、出口につながる道筋が見えてきたからといって、すぐに脱出できるわけではない。
巨人島を離れる直前、ビョルンたちは規格外の巨人を目撃している。あれが島の攻略に関係するボス級の存在だとすれば、現在の戦力のまま先へ進むのは危険だった。
必要なのは情報だけではない。
脱出条件へ挑戦できるだけの「力」そのものが必要なのだ。
そこでビョルンは人間島へ戻り、長老との取引を利用した戦力強化へ動き始める。
ところがその過程で、もう一つの問題も浮かび上がってくる。
長老は本当に、かつて「竜騎士」と呼ばれたコルネリウス・ブルグリッドなのか。
そして、なぜ彼は怪物の身体となってまで長い時間を生き続けているのか。
今回の第529話では、脱出へ向けた戦力強化が本格的に始まる一方、長老の過去に「不死」という不穏な言葉が浮かび上がる。
- 雨季直前、人間島へ戻ったビョルンたち
- 長老との再会と消えない違和感
- 巨人島で突きつけられた戦力不足
- 戻ってこない銀獅子一族
- 7人から39人へ――急拡大した探索隊
- 竜騎士コルネリウス・ブルグリッドは「不死」に執着していた
- 長老が提案を受諾――村の戦士を総動員
- なぜここまでして強くなる必要があるのか
- 人間島の雨季――空から怪物が降ってくる災害
- 約300人による雨季迎撃戦
- 「災害? これは恵みだ」
- 希少な怪物まで降ってくる異常な狩場
- ついに訪れたレベルアップ
- ビョルンの本当の強さは「危険を資源へ変えること」
- 7人から39人へ――構築そのものが変わる
- 大人数になるほど指揮が強さを左右する
- 人数増加には明確な弱点もある
- 新しい聖水枠+1が持つ意味
- 次の聖水は「最も強いもの」ではなく「最も必要なもの」か
- 対単体・対多数・対大型という三つの軸
- 長老の「不死への執着」は何を意味するのか
- 長老の正体について考えられる三つの可能性
- なぜ長老はビョルンの提案に即答しなかったのか
- 「信用しない」と「敵対する」は同じではない
- 第529話は「脱出」より「脱出のための準備」の回
- まとめ
雨季直前、人間島へ戻ったビョルンたち
遠征63日目、午後3時。
ビョルンたちは雨季が始まる前日に人間島へ到着した。
時間にはまだ余裕があり、本来なら島に出現する怪物を狩ることもできた。しかし今回は予定を変更し、そのまま村へ入る。
そこで新しく仲間になった探索者たちは、異様な光景を目にすることになる。
人間のように暮らし、言葉を使い、社会を形成している怪物たち。
ヘックス一族の探索者たちは露骨に警戒していた。
「本当に怪物の村なのか……」
事前にビョルンから説明を受けていたとしても、知識として聞くことと、実際に目の前で見ることはまったく違う。
探索者にとって怪物とは、基本的に倒すべき敵だ。
その怪物たちが家を建て、集落を作り、まるで人間のように生活している。
長年迷宮に潜ってきた者ほど、その異常さを理解できただろう。
一方、ムル・アルミン率いる探索隊は反応が違った。
恐怖より先に、好奇心が勝っている。
巨大な迷宮なのだから、知性を持った存在がいてもおかしくない。むしろ、これまで誰にも知られていなかったことのほうが驚きだ――そんな探索者らしい興奮すら見せていた。
特に魔術師たちは熱心だった。
古代語をもっと勉強しておけばよかったと悔しがる者までいる。
同じ未知を前にしても、反応は正反対だ。
ヘックス一族にとって怪物の村は「警戒すべき未知」。
アルミン探索隊にとっては「研究すべき未知」。
それぞれが迷宮探索に何を求めてきたのかが、よく表れている。
しかし、ビョルンには彼らの好奇心に付き合っている余裕はない。
仲間たちをアメリアに任せ、一人で長老のもとへ向かった。
長老との再会と消えない違和感
長老はビョルンの帰還を歓迎した。
長い間、新しい探索者と接触することがほとんどなかった彼らにとって、ビョルンたちは非常に珍しい存在だ。
しかし相変わらず、長老の声から感情はほとんど感じられない。
心配していたと言われても、その言葉と声色が一致しない。
まるで機械と話しているような不自然さが残る。
人間島に住む怪物すべてがそうなのかというと、そうではない。
アイナルと親しくなった住民たちはもっと普通に感情を見せている。
だからこそ、長老だけが余計に異質に映る。
ビョルンはこれまでの探索について簡単に説明した。
木の島を探索したこと。
岩の島で探索者たちと遭遇したこと。
巨人島で探索者を救出したこと。
洞窟でポータルストーンを発見したこと。
そして最後に、巨人島で途方もない大きさの巨人を目撃したこと。
短期間の成果として見ればかなり大きい。
だが会話の中で、ビョルンは以前から感じていた一つの疑問を改めて意識する。
長老は、外の世界でも時間が流れていることを最初から知っていたのではないか。
初めて会ったとき、長老はビョルンに「外ではどれほど時間が経過したのか」と尋ねていた。
何気ない質問に見える。
しかし考えてみれば妙だ。
この場所にいる間も外部で時間が進むという認識がなければ、その質問自体が出てこない。
今回、ビョルンが外でも時間が正常に流れているようだと説明しても、長老は特に驚かなかった。
以前から知っていたと考えれば自然だ。
では、なぜ知っていたのか。
誰から聞いたのか。
どこまでこの階層の仕組みを知っているのか。
疑い始めればいくらでも疑問は出てくる。
だがビョルンは追及しなかった。
相手が何かを隠しているのであれば、問い詰めたところで素直に答えるはずがない。
むしろ、こちらが疑っていることを知らせるだけだ。
長老は信用できるかもしれない。
あるいは信用できない存在かもしれない。
だが少なくとも今は、利用価値がある。
この島についての知識を持っている。
住民を動かす力もある。
そしてこれからの脱出計画には、その協力が必要になる。
ビョルンにとって「信用できる相手」と「協力できる相手」は同じではない。
相手の正体が分からないなら、警戒しながら利用すればいい。
この割り切りこそ、何度も死線を越えてきたビョルンらしい判断だった。
巨人島で突きつけられた戦力不足
探索結果について話したあと、会話はいよいよ脱出計画へ移る。
現在までに得た情報を考えれば、隠しエリアがこの階層から抜け出すための鍵になっている可能性は高い。
しかしビョルンには、その前に解決しなければならない問題があった。
戦力だ。
巨人島を離れる直前に目撃した巨大な存在。
あれが単なる背景として配置された怪物とは考えにくい。
巨人島にはポータルストーンが存在していた。
そして『ダンジョン・アンド・ストーン』で培った経験から考えても、あの巨人は島を象徴するボス級の存在である可能性が高かった。
さらに問題なのは、巨人島だけが特別とは限らないことだ。
木の島。
図書館島。
そして地下1階の「書庫」。
攻略難度の上がり方を考えれば、それぞれに同格の脅威が存在していても不思議ではない。
出口を見つけても、その前にいる敵を倒せなければ意味がない。
だからビョルンは、脱出方法を探すのと同時に、自分たちの戦力そのものを引き上げる必要があると判断した。
そこで以前、長老と交わした約束を持ち出す。
ビョルンたちは探索で得た情報を共有する。
その代わりに長老側も探索を支援する。
善意ではなく、最初から取引だった。
そして今、ビョルンはその対価を求める。
「力を貸してほしい。」
欲しいのは次の島についての情報ではない。
これから待ち受ける強敵と戦えるだけの戦力を作るため、長老と村そのものの力を借りたいという要求だった。
だが長老はすぐには答えなかった。
考える時間が欲しいという。
ここにもわずかな違和感が残る。
この場所から脱出したいのであれば、ビョルンたちが強くなることは長老にも利益になるはずだ。
それでも即答しなかった。
もちろん、村の住民を危険にさらす計画であれば、慎重になるのは当然だ。
この段階では、それ以上の意味があるとは断定できない。
ビョルンも無理に答えを迫らず、雨季が始まるまでに返答してほしいとだけ伝えた。
戻ってこない銀獅子一族
その後、ビョルンは銀獅子一族についても確認した。
彼らはビョルンたちが人間島を離れたあと、自分たちも島を出たらしい。
しかし、まだ戻ってきていない。
翌日には雨季が始まる。
雨季が始まれば、長老は村の門を閉じる。
ビョルンの頭には、当然危険な可能性も浮かぶ。
彼らの戦力を考えれば、身の丈に合わない島へ向かい、そのまま全滅したとしても不思議ではない。
ビョルンたちですら戦力不足を感じ、積極的に仲間を増やしている状況なのだ。
とはいえ、今考えても答えは出ない。
戻ってくる可能性もある。
ビョルンはひとまず銀獅子一族のことを頭の片隅へ追いやり、仲間たちのもとへ戻った。
7人から39人へ――急拡大した探索隊
家に戻ると、そこはまるで避難所のような状態になっていた。
出発時には7人だった。
それが今では39人。
一軒の家で生活するには、明らかに人数が多すぎる。
生存を最優先するワイト・ヘックスは、新しい住居を用意してもらえると聞いて安心する。
だがムル・アルミンには、住居以上に気になることがあった。
長老についてだ。
彼は、長老が「竜騎士コルネリウス・ブルグリッド」だという話をどこかで聞いていた。
情報源はアイナルだった。
ビョルンはため息をつくが、これはアイナルだけを責められる話でもない。
そもそも秘密にするよう命じていなかったのだから、彼女からすれば話してはいけない理由がなかった。
そこでビョルンは改めて説明する。
長老は確かに、自分をコルネリウス・ブルグリッドだと名乗っている。
しかし本人だという証拠はない。
つまり現段階では、
「長老がそう主張している」
という以上のものではない。
そして迷宮研究を長く続けてきたムルへ、逆に意見を求める。
するとムルは、一つ気になる情報があると話し始めた。
竜騎士コルネリウス・ブルグリッドは「不死」に執着していた
ムルが過去に古物市場で見つけた資料。
それが書かれた時代自体は、コルネリウス・ブルグリッドが生きていた時代と一致していたという。
ただし、内容まで本物である保証はない。
あくまで真偽不明の古い記録だ。
それでも、そこに記されていた内容は無視できなかった。
「コルネリウス・ブルグリッドは、不死に執着していた。」
さらに、その考えをめぐって「最後の賢者」と何度も衝突していたという。
確証のない古い逸話。
それだけなら、歴史の片隅にある噂話として終わる。
しかし現在の長老を見れば、意味が変わってくる。
長老は怪物の身体を持ちながら、古代の知識を保持し、自分をブルグリッドだと名乗っている。
もしムルの記録が本物だったなら、
不死を求めていた人物が、怪物の身体となって長い年月を生き続けている
という不気味な一致が生まれる。
偶然なのか。
それとも目的を達成した結果なのか。
まだ何も証明されていない。
長老が本当にブルグリッド本人なのかさえ分からない。
それでもビョルンの中では、これまで感じていた違和感が少しずつ一つの線でつながり始めた。
外の時間について以前から知っていたような言動。
感情の薄さ。
怪物の身体。
古代の知識。
そして「不死への執着」。
長老はいったい何者なのか。
ビョルンの警戒心は、確実に一段階引き上げられた。
長老が提案を受諾――村の戦士を総動員
遠征64日目、午後9時。
長老がビョルンたちのもとを訪れる。
一つ目の用件は新しい住居。
そしてもう一つが本題だった。
「提案を受け入れることにした。」
長老はついに、ビョルンが持ちかけた戦力強化計画への協力を決めた。
前日に不死の話を聞いたばかりであり、ビョルンの警戒心が消えたわけではない。
むしろ強くなっている。
それでも疑念を表には出さない。
長老を敵に回す理由が今はないからだ。
協力を利用して先に自分たちを強くする。
正体を調べるのはそのあとでも遅くない。
長老の決断によって村の戦士たちが動き始める。
しかも数人、数十人ではない。
長老は大規模に戦士を集めていた。
そこへビョルン側の探索者たちも加わる。
最終的に集まったのは、探索者と怪物の戦士を合わせて約300人。
一つの探索隊という規模を超えている。
これはすでに「狩り」ではない。
軍勢による迎撃戦だった。
なぜここまでして強くなる必要があるのか
目的は地下1階「書庫」の攻略へ備えること。
現在の戦力では難しい。
ならば、先に強くなる。
単純な話だ。
しかし迷宮で強くなることは、普通なら簡単ではない。
高い経験値を得られる怪物ほど危険な場所にいる。
価値の高い聖水を持つ怪物ほど強い。
成長したいなら、より大きな危険を引き受けなければならない。
探索者にとって成長とは、本来そういうものだ。
ところが人間島には、その原則を崩せる特殊な現象が存在する。
雨季である。
人間島の雨季――空から怪物が降ってくる災害
人間島の雨季は、普通の雨ではない。
空から怪物そのものが降ってくる。
住民にとっては明確な災害だ。
だから村の門を閉じ、外へ出ず、怪物の襲来が終わるまで耐える。
しかしビョルンは、この現象を違う角度から見ていた。
怪物が勝手にやってくる。
しかも上空から落下する。
そのすべてが無傷で着地できるわけではない。
地面に叩きつけられてそのまま死亡する個体。
骨や身体を損傷する個体。
大きなダメージを受けながら生き残る個体。
つまり雨季とは、
本来なら危険な怪物が、すでに傷ついた状態で大量に供給される現象
でもある。
通常の狩りなら、怪物を探す必要がある。
危険地帯へ移動しなければならない。
敵の位置を探り、地形を確認し、逃走経路まで考える。
雨季なら、その多くが必要ない。
待っていれば向こうから来る。
ビョルンが狙ったのは、そこだった。
約300人による雨季迎撃戦
雨季開始が迫る中、長老は最後まで慎重だった。
まだ考え直すことはできる。
災害に真正面からぶつかる必要はない。
だがビョルンに迷いはなかった。
約300人。
この人数があれば、普段なら一つの探索隊では処理できない量の怪物にも対応できる。
前衛が突進を止める。
後方から槍や遠距離攻撃を重ねる。
危険な個体には複数人を当てる。
疲労した者は交代させる。
個人戦ではなく、集団全体の処理能力で怪物の物量へ対抗する。
さらに、村の戦士たちはこの土地と雨季を知り尽くしている。
そこへ探索者の戦闘力を組み合わせる。
未知の災害へ無計画に突っ込んだわけではない。
土地を知る者、戦える者、そして数の力を組み合わせて狩場そのものを作ったのである。
そしてついに、その時が訪れる。
空からさまざまな怪物の咆哮が響く。
次の瞬間、怪物たちが次々と落下してきた。
地面へ激突し、そのまま光となって消える個体。
身体を損傷しながらも立ち上がる個体。
足を引きずりながら襲いかかってくる怪物。
普通なら恐怖の始まりだ。
だが今回は違う。
待ち構えているのは約300人。
落下直後、怪物が体勢を立て直す前に攻撃が集中する。
姿勢が崩れている。
負傷している。
状況を把握できていない。
そこへ複数人で攻撃を加える。
本来なら時間のかかる怪物でも、力を発揮する前に処理できる。
もちろん、落下ダメージをほとんど受けずに動く怪物もいる。
だからこそ人数が必要だった。
一人で受け止める必要はない。
危険な敵には火力を集中する。
弱った敵は即座に処理し、次へ備える。
雨季という無秩序な災害を、集団戦の論理で制御していく。
「災害? これは恵みだ」
怪物が次々と降り注ぐ。
普通なら、逃げたいと思うだろう。
建物に隠れたい。
早く終わってほしい。
それが自然な反応だ。
しかしビョルンの認識は正反対だった。
「災害? これは恵みだ。」
危険であることは間違いない。
しかし危険だから価値がないわけではない。
敵を探す必要がない。
怪物のほうから来る。
落下で弱っている。
こちらには約300人いる。
さらに通常なら裂け目や隠しフィールドでなければ遭遇しにくい怪物まで混ざっている。
条件がここまでそろえば、雨季は災害ではない。
極めて効率の高い経験値稼ぎの場だ。
ビョルンは盾を掲げる。
そしてバーバリアンの雄叫びを上げた。
「ベヘル――ラァァァァァ!!」
その声を合図にするように、探索者と怪物の戦士たちが敵へ襲いかかる。
希少な怪物まで降ってくる異常な狩場
戦闘が始まると、雨季の価値はさらに明確になる。
ライトゥール・タリスマンメイジ。
ウェアウルフ。
ウォールモール。
アケルタス。
地底アースドラゴン。
アイアントロール。
オーク戦士。
アイランドガーディアン。
通常なら裂け目や隠しフィールドでなければ遭遇しにくい怪物まで混ざっている。
それらが今は、向こうから降ってくる。
しかも着地時に損傷している。
本来なら「まだ戦うには早い」と判断する怪物からも経験を得られる。
狩場を移動する必要もない。
怪物を探す必要もない。
ただ目の前に現れる敵を処理し続ければいい。
まさに経験値の奔流だった。
ついに訪れたレベルアップ
怪物を倒し続けるうちに、待ち望んでいた通知が現れる。
レベルアップ。
魂力が30上昇した。
しかし今回のレベルアップには、それ以上に重要な変化がある。
吸収できる聖水の最大数が1つ増えた。
これはビョルンにとって非常に大きい。
迷宮探索者にとって聖水は、単なる能力値上昇ではない。
どの怪物の聖水を吸収するかによって、得られる能力やスキルが変わる。
つまり聖水の枠は、キャラクター構築そのものに直結する有限の資源だ。
枠が一つ増えれば、新しい能力を追加できる。
既存の弱点を補うこともできる。
現在の長所をさらに伸ばすこともできる。
そしてこれから待つのは、巨人島で見たような規格外の敵や地下1階「書庫」の攻略だ。
聖水一つの選択が、攻略難度を大きく変える可能性がある。
雨季で手に入れたものは単なる経験値ではない。
次の攻略へ向けた「成長の余白」そのものだった。
ビョルンの本当の強さは「危険を資源へ変えること」
今回の雨季攻略を見ると、ビョルンの強さは単純な勇敢さでは説明できない。
彼は危険を好んでいるわけではない。
むしろ危険を計算し、
「どんな条件なら利益へ変えられるか」
を考えている。
住民にとって雨季は避けるべき災害だった。
生き残るだけなら、門を閉じてやり過ごすのが正しい。
しかしビョルンの目的は、今日一日を生き延びることではない。
この階層から脱出することだ。
その先には、雨季以上に危険な敵がいる可能性が高い。
ならば今、安全にやり過ごすだけでは足りない。
雨季を利用して、次の危険を乗り越えられるだけの強さを手に入れる。
ここがビョルンの発想の核心だ。
敵の格を下げることはできない。
ならば戦闘条件をこちらに有利な形へ変える。
敵を探さずに済む。
落下で弱らせる。
約300人を集める。
個人で倒せない敵も複数人で処理する。
危険そのものを消しているわけではない。
危険と報酬の比率を変えている。
この能力こそ、ビョルンが迷宮で生き残り続けている大きな理由だろう。
7人から39人へ――構築そのものが変わる
もう一つ注目したいのが、ビョルンたちの人数だ。
出発時は7人。
現在は39人。
単純に人数が増えただけではない。
戦術の考え方そのものが変わってくる。
少人数では、一人ひとりの役割が極めて重要だ。
ビョルンが盾役として前へ出る。
仲間がその後ろから火力を出す。
誰か一人欠けただけでも戦術全体に大きな穴が開く。
だが39人なら、前衛を複数用意できる。
交代要員を置ける。
遠距離攻撃役をまとめて集中攻撃させられる。
探索要員と戦闘要員を分離することもできる。
これまでビョルン自身の聖水やスキルについて考えてきた「構築」という概念が、
探索隊全体へ拡張され始めている。
全員を万能型にする必要はない。
対単体に強い者。
対多数戦に向いた者。
遠距離攻撃役。
索敵。
防御。
支援。
それぞれを専門化し、集団として弱点を消していけばいい。
個人の弱点を聖水で埋めるのと同じように、集団の弱点を人員配置で埋める。
今後のビョルンには、「自分がどう戦うか」だけでなく、
「39人をどう一つの戦力として使うか」
という新しい能力が求められることになる。
大人数になるほど指揮が強さを左右する
人数が増えれば、単純に戦力が比例して増えるわけでもない。
例えば狭い通路に30人の前衛がいても、全員が同時に戦えるとは限らない。
後ろで何もできない人間が多ければ、人数を活かせていない。
逆に広い場所で敵が複数方向から来るなら、一か所へ全員を集めるのも危険だ。
大人数戦では、
どこに何人を置くか。
どこをビョルンが守るか。
魔術師をどこへ配置するか。
敵が現れたとき誰を動かすか。
こうした指揮が戦力そのものになる。
今回の約300人による雨季戦は、その意味でも重要だった。
ビョルンが自分一人の強さではなく、集団全体の処理能力を利用した初めての大規模な戦いに近い。
今後さらに難しい場所へ進むなら、この経験は大きな意味を持つだろう。
人数増加には明確な弱点もある
もちろん、39人になれば問題も増える。
今回すでに、一軒の家に全員が集まり、避難所のような状態になっている。
人数が増えるということは、
食料。
水。
宿泊場所。
治療。
装備。
移動。
そうしたすべての必要量が増えるということだ。
さらに難しいのが意思統一である。
7人なら全員で話し合える。
39人ではそうはいかない。
しかも集まったのは昔からの仲間だけではない。
ヘックス一族。
アルミン探索隊。
そしてビョルンたち。
価値観も目的も完全には一致していない。
今後は敵を倒すことだけでなく、
集団そのものを維持できるか
も攻略の一部になっていくだろう。
新しい聖水枠+1が持つ意味
今回のレベルアップで得た新しい一枠。
これが今後の構築で非常に大きな意味を持つ。
聖水構築では、単純に強い能力を選べばいいわけではない。
枠に限りがある。
何かを入れれば、別の何かを入れられない。
つまり構築とは、
「何を得るか」だけでなく「何を諦めるか」を決める作業
でもある。
防御をさらに強化するのか。
攻撃力を補うのか。
機動力を入れるのか。
状態異常や環境への耐性を取るのか。
これまではどれかを選べば、どれかを諦めなければならなかった。
しかし枠が一つ増えれば、その制約を一つ緩和できる。
能力値が少し上がる以上に価値がある可能性も高い。
次の聖水は「最も強いもの」ではなく「最も必要なもの」か
ここで重要なのは、新しい枠に何を入れるかだ。
単純にランクの高い聖水を選べばいいとは限らない。
今のビョルンには明確な目的がある。
この階層から脱出すること。
そのためには、
巨人島の大型ボス。
地下1階「書庫」。
木の島。
そしてまだ詳細の分からない隠しエリア。
こうした特殊な場所を攻略する必要がある。
つまり今後の聖水選びでは、
「ビョルン個人を最も強くする能力」ではなく、「攻略成功率を最も高める能力」
が優先される可能性が高い。
大型の敵の一撃を受ける必要があるなら防御。
逃げる敵を追う必要があるなら機動力。
多数の敵を相手にするなら範囲攻撃。
特殊な攻撃が問題になるなら耐性。
状況によって最適解は変わる。
ビョルンがゲーム時代から得意としてきたのは、まさにこの考え方だった。
強い能力だから取るのではない。
次に何と戦うのかを考えて取る。
だからこそ新しい一枠は、今後の攻略に大きな影響を与える。
対単体・対多数・対大型という三つの軸
今後の構築を考えるなら、少なくとも三つの戦闘を意識したい。
一つ目は対単体。
ボス級の敵を相手にする戦いだ。
こうした戦いでは、一体に対してどれだけ継続的にダメージを与えられるか。
そして強烈な攻撃をどう耐えるかが重要になる。
二つ目は対多数。
今回の雨季のように、敵の数そのものが脅威になる状況だ。
範囲攻撃。
足止め。
妨害。
戦線維持。
こうした能力の価値が高くなる。
三つ目が対大型。
巨人島で見た存在のような相手だ。
大型の敵は、単純な対単体戦とは違う可能性がある。
身体そのものが攻撃範囲になる。
移動だけで地形を破壊するかもしれない。
通常の盾役のように正面から受け止められる保証もない。
もし巨人島の存在と実際に戦うことになるなら、新しい聖水枠の使い方にも大きな影響を与えるはずだ。
長老の「不死への執着」は何を意味するのか
戦力強化と同時に、今回最大級の伏線として浮上したのが長老の過去だ。
ムルの資料によれば、コルネリウス・ブルグリッドは不死に執着していた。
そして、そのことで「最後の賢者」と対立していた。
もちろん資料の内容が本物だという保証はない。
ここは断定できない。
しかし現在の長老と合わせて考えると、どうしても無視できない。
長老は人間の身体ではない。
怪物の姿で存在している。
それでも古代の知識を持ち、自分をコルネリウス・ブルグリッドだと名乗っている。
もし本当に本人なのであれば、
不死を求めていた人物が、怪物の身体で長い年月を生きている
という構図になる。
偶然なのか。
それとも不死への研究の結果なのか。
今後の大きな謎だ。
長老の正体について考えられる三つの可能性
一つ目は、長老が本当にブルグリッド本人である可能性。
不死を追求した結果、怪物の身体へ移る方法を手に入れた。
もしそうなら、現在の姿そのものが彼の研究の成果だった可能性がある。
二つ目は、肉体的な意味では本人ではない可能性。
記憶。
人格。
知識。
魂。
そうした一部だけが怪物へ移された。
この場合、ビョルンが感じている感情の薄さも気になる。
「機械と話しているようだ」という感覚は、単なる性格ではないのかもしれない。
そして三つ目。
現在の長老はブルグリッドではなく、その名前を使っているだけという可能性だ。
古代の英雄の名前を名乗れば、外から来た探索者の信頼を得やすい。
もし偽物なのであれば、
なぜブルグリッドを名乗るのか。
本当は誰なのか。
何を目的としているのか。
疑問はさらに深くなる。
なぜ長老はビョルンの提案に即答しなかったのか
もう一つ気になるのが、長老が戦力強化案に即答しなかったことだ。
もちろん村の戦士を危険にさらすため、慎重に考えるのは当然だ。
だから、それだけで長老を疑うことはできない。
ただし、もし長老の最優先目標が単純に「この場所から脱出すること」だけなのであれば、ビョルンたちが強くなることは基本的には歓迎すべきことでもある。
そのため、少し引っかかる。
長老が守りたいものは、脱出だけではないのかもしれない。
人間島。
村の住民。
現在の身体。
あるいは、この階層に存在する何か。
ビョルンと長老は今、「脱出」という一点では協力している。
しかし、
最終目的まで同じとは限らない。
この点は今後も注意して見ておきたい。
「信用しない」と「敵対する」は同じではない
ビョルンは長老を疑っている。
それでも協力を受け入れている。
ここにもビョルンの対人関係の特徴が出ている。
信用できるか。
協力できるか。
利益が一致しているか。
敵対する必要があるか。
これらを別々に考えている。
信用できないから即座に敵になるわけではない。
今は目的が一致しているなら手を組む。
相手が裏切る可能性があるなら、警戒しながら利用する。
そして証拠が集まるまで判断を保留する。
感情ではなく、状況で関係を決める。
だからビョルンは、長老への疑念を抱えたままでも村の戦力を借りることができた。
長老が味方なら、そのまま協力すればいい。
もし敵だったとしても、そのとき自分たちが強くなっていれば対処しやすい。
どちらに転んでも、
先に戦力を増やしておくことは無駄にならない。
第529話は「脱出」より「脱出のための準備」の回
「脱出計画(2)」という題名ではあるものの、今回ビョルンたちは出口へ直接進んでいない。
むしろ今回の中心は、
脱出するために不足しているものを把握し、それを埋め始めること
にある。
巨人島で戦力不足を認識する。
長老へ協力を求める。
村の戦士を借りる。
雨季を利用する。
レベルを上げる。
聖水枠を増やす。
すべてが次の攻略への準備だ。
そして同時に、長老という新しい不確定要素も増えている。
戦力は増えた。
できることも増えた。
だが知れば知るほど、長老とこの階層に対する疑問も深くなっていく。
脱出計画が前進するほど、この場所の核心へ近づいているようにも見える。
まとめ
第529話では、ビョルンたちが人間島へ帰還し、脱出へ向けた本格的な戦力強化を開始した。
重要なのは、ビョルンが雨季という災害へ無謀に挑んだわけではないことだ。
怪物が向こうから来る。
落下で弱っている。
約300人の戦力を準備できる。
通常では遭遇しにくい怪物まで現れる。
こうした条件を揃えたうえで、危険そのものを経験値へ変えた。
危険を避けるのではなく、危険が利益になる条件を作る。
これこそ、今回のビョルンを象徴する考え方だった。
その結果、レベルアップによって魂力が上昇し、さらに新しい聖水を吸収できる枠も一つ増えた。
今後はこの一枠を何に使うのかが大きな注目点になる。
一方、長老については「不死への執着」という不穏な情報が浮上した。
長老は本当にコルネリウス・ブルグリッド本人なのか。
怪物の身体で長期間生きていることと、不死への研究は関係しているのか。
そして長老の目的は、本当にビョルンたちと同じなのか。
現段階では答えは出ていない。
戦力は増えた。
仲間も増えた。
そして謎も増えた。
次に注目したいのは、新しい聖水枠の使い道と地下1階「書庫」への攻略準備。
脱出計画は、ようやく本格的な攻略段階へ入り始めた。
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